海と夕日

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真っ赤な夕陽が、海に溶ける。 船から見るその夕陽はずっと大きくずっと穏やかで、少女は看板でひとりため息を漏らした。 「綺麗だろ?」 先ほどから全く気配が感じられなかったものが自分のすぐ後ろにいることに驚き、思わず肩を震わせる。 きっと怯えた目で振り返ると、青い瞳の少年はどこかさびしげに笑った。 「やっぱり恐いか?」 「……ううん、びっくりしただけ。」 声の震えを、感じとっただろうか。 少年は横を向いて邪魔して悪かったなと呟き、船室の壁まで二、三下がった。 しかし、完全に行ってしまう気はないらしい。 壁に背中と頭を預けてだらりと座り、視界いっぱいの夕陽を眺める。 「……あの、いつからここに?」 「夕陽が海に架かる前から。」 そんなに長い時間自分はここにいて、しかも気付かずにいたのかと、少女は目を丸くする。 「うみとら……ジョウは、何をしてたの。」 金色の髪に青い目のどう見ても異邦人の少年は、海賊――和寇の若頭。海の上を駆け回り情け容赦なく獲物を見付けては食らいつく様から、海虎の名が付いた。 親類が襲われた少女もそれをよく知っているから、船に乗せられて生活するようになってからも、つい海虎の二つ名が口をついて出る。 そしてその恐ろしさを知っているから、慌ててその真名を口にし直した。 今目の前にいるのは、海虎ではなく村上、擾という名の、一人の少年なのだと自分に言い聞かせる。 擾はまたさびしそうに、自嘲気味に苦笑して、それから真っ直ぐ少女の目を見た。 きっと日本人の母とは似ても似つかないのであろう、碧色の瞳を。 「……綺麗だなと思ってさ。」 少女はきょとんとした顔で立ち尽くし、それから思い出したように擾に背を向け夕陽をまた見る。 「……うん。」 平気で人を殺す海虎の口から出る、綺麗という言葉。その優しい声音、やわらかなまなざし。 意外で、そして妙にしっくりと来て、少女はなぜか紅潮する頬を真っ赤な夕陽と海風に当てた。
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