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(ここは……?)
とある命はすぐに理解した。ここは命が生まれる場所なんだと。
彼女は一度ここを訪れたことがある。そして、生まれ、そして今、帰ってきた。
(――そうか。
私は帰ってきたのか)
ここにはまだ意識だけしか存在していない。それ以外のものは、まだ生み出されていない。
だから、まだ自分以外には誰もいないと思っていた。
しかし、彼女の場合は違った。
もうひとつ、
別の命が生まれていたのだ。
(すぅ……すぅ……)
隣から寝息みたいなものを感じた。前にも一度彼女は似たようなものを聴いたことがある。
いや、一度だけではない。
何度も何度も何度も。――隣で。
(……私は、ここに戻ってこなければよかったのかな)
一定の間隔で繰り返されるそれに愛しさを感じ、彼女はそう後悔する。
だけどもう遅い。ここに来てしまったからには、目的を果たさなければならないのだ。
彼女自身がいなくなることで、
全てが丸く治まるのだから。
幾度となく込み上げてくるものを彼女は必死で殺し、振り払う。
そして――
(――ごめんね。妹)
とある命はもうひとつの命とひとつになり、消えてしまった。
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