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第二話
① 勇
「こんなに遠出するのも久しぶりだね。」
この唯の言葉を振り返ると昨日になる。
~昨夜~
俺は唯が母さんの手伝いをしている間、食後の読書を満喫していた。それからしばらくして(明確な時間は分からない)、いつもの様に階段を上る音が聞こえた。
例によって、唯。
「ねぇ勇、明日暇?だよね…。」
「いつもな。」
「だったらさ、明日出かけない?」
「欲しい物でもあったか?何で今日買わなかったんだ?」
唯は首を激しく横に振った。
「違うの。」
「じゃあ何だ?」
唯はしばらく俯く。
「…デート。」
「ん?」
文字通り呟いたので、俺の耳には届かなかった。
「デート!しよ…。」
唯の顔は赤かったと思う。俯いたままだったから確信はもてない。
「何で…?」
俺は唐突にそう言う理由を尋ねた。
「二人が…付き合ったから…その記念に…。」
なるほど、唯らしい。
「嫌かな…?」
照れを通り越して泣きそうな表情を見せる。よっぽど緊張したらしい。
「で、何処行きたいんだ?」
「え?」
「行く場所によって家を出る時間が変わるだろ。で、何処行く?」
唯は顔に笑みを浮かべた。
「水族館。」
「水族館?この前できた?」
半年ぐらい前に海沿いに新しい水族館ができた。
「うん。」
そう言う唯は子供っぽかった。
「じゃあいくつか乗り換えがあるから…明日9時出発でどうだ?」
「うん、分かった。」
…なんか保護者の気分…。
「じゃあもう寝るね。」立ち上がり、部屋を出る。
「寝坊しちゃ…だめだからね。」の言葉を置き土産に。
そして明くる朝。
起きたときには既に朝食が完成しているという手際の良さ。
なるほど、母さんも一枚かんでるのか…。
腕時計の長針が9時を指したと同時に唯が来た。
「おはようございま~す。勇をお迎えに来ました。」
今日の唯はいつもと同じなのに、いつもと違って見えた。少し、可愛く…
わざわざ母さんは見送りやがった
「勇、行こ。」
唯が差し出した手に、俺はなるべく自然に(見えるように)繋いだ。
唯の手は、小さくて(強調)、柔らかくて、温かい。
恥ずかしいけど、嬉しかった。
「こんなに遠出するのも久しぶりだね。」
俺は唯の歩幅に合わせて歩いた。
全てが新しい二人の旅に。
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