序幕

2/3

903人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
薄暗い、裏路地だった。 広がる血溜まりの中に女性が倒れている。胸に大きな裂傷、明らかに致命傷だった。 その傍らに、男が立っている。その手には日本刀が握られていた。たった今、女性を斬った刀だ。 男はもう動かない女性の胸に、刀を刺した。 感触に満足し、刀を抜く。 また刺す。 抜く。 刺す。 抜く。 刺す。 抜く。 何度繰り返したのか、男には分からない。 「すいません、お尋ねしたいのですが。」 少年が、そこに立っていた。黒いコートを羽織り、黒い帽子を深く被っている。僅かに見える口元から、その白い肌が分かる。 その手に握られている、細長い物が、白い布に覆われていた。 「・・・探し物をしてるんですが。」 男が刀を構える。しかし少年は悠然と、言葉を続ける。 「まだ後があるので、手短に済ませたいんですよ。優しく言っている内に・・・」 刀が振り降ろされる。確かな殺意を孕んだ一撃は、 当たらなかった。 返す刀。 それもまた当たらない。 まるで喜劇。 「・・・無様だな。」 少年は大きく後ろに下がる。 「貴様はつまらない。早々に終わらせる。」 白い布を剥ぐ。そこから現れたのは、鞘に収まったままの、野太刀だった。 「妖刀、捕まえる。」
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

903人が本棚に入れています
本棚に追加