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そこは映画館だった。少年はただ映画を見ている。しかし内容は頭に入っていない。
「ダリア、何故いつも会う場所がこんな場所なんだ?」
「えっ?それは当然、遊びたいから。それにこの映画も見たかったし。」
少年の隣でポップコーンを食べながら、映画を楽しんでいる少女が答えた。
ダリアと呼ばれた少女は、ショートボブにゴスロリファッションだった。
「それに優もこの映画の原作は知ってるでしょ?だったら楽しめると思うよ?」
「むしろ原作を知っているから見ていて辛い。」
優と呼ばれた少年は、深い溜め息を吐いた。黒いコートと帽子は、この場において迷彩効果を発揮していた。
見ている映画は、某有名な妖怪アニメを実写にしたものだ。優も原作は知っている。
「いやいや、こういうアニメを実写にした作品って何処か痛々しいんだけどさ、逆にそれが癖にならない。」
「ならない。」
「相変わらずの無愛想だね?そんなのは特定の趣味の人にしか受けないよ?」
「誰かを喜ばせる為に、生きてるわけじゃない。」
元々、優は無愛想な人間だ。少なくともダリアが初めて出会った時には、すでにこんな性格だった。
魔術師は本来、感情の起伏を見せない。それは精神で戦う彼らのスタイルであり、故に生粋の魔術師である優もそんな性格になってしまった。
しかしダリアはそれを嫌っている。まだ若い優には人生を楽しんで欲しいと思っている。
「そもそも俺は資料を受け取りに来ただけだ。それと映画と何の関係がある。」
「関係はないけど、深く気にしないの。これを見終わるまでは、資料は渡さないよ?」
「・・・・・・やれやれ、仕方ないな。」
優は深い溜め息を吐いて、傍らのジュースを飲む。ダリアはご満悦だった。
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