第一幕 魔術師

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そこは映画館だった。少年はただ映画を見ている。しかし内容は頭に入っていない。 「ダリア、何故いつも会う場所がこんな場所なんだ?」 「えっ?それは当然、遊びたいから。それにこの映画も見たかったし。」 少年の隣でポップコーンを食べながら、映画を楽しんでいる少女が答えた。 ダリアと呼ばれた少女は、ショートボブにゴスロリファッションだった。 「それに優もこの映画の原作は知ってるでしょ?だったら楽しめると思うよ?」 「むしろ原作を知っているから見ていて辛い。」 優と呼ばれた少年は、深い溜め息を吐いた。黒いコートと帽子は、この場において迷彩効果を発揮していた。 見ている映画は、某有名な妖怪アニメを実写にしたものだ。優も原作は知っている。 「いやいや、こういうアニメを実写にした作品って何処か痛々しいんだけどさ、逆にそれが癖にならない。」 「ならない。」 「相変わらずの無愛想だね?そんなのは特定の趣味の人にしか受けないよ?」 「誰かを喜ばせる為に、生きてるわけじゃない。」 元々、優は無愛想な人間だ。少なくともダリアが初めて出会った時には、すでにこんな性格だった。 魔術師は本来、感情の起伏を見せない。それは精神で戦う彼らのスタイルであり、故に生粋の魔術師である優もそんな性格になってしまった。 しかしダリアはそれを嫌っている。まだ若い優には人生を楽しんで欲しいと思っている。 「そもそも俺は資料を受け取りに来ただけだ。それと映画と何の関係がある。」 「関係はないけど、深く気にしないの。これを見終わるまでは、資料は渡さないよ?」 「・・・・・・やれやれ、仕方ないな。」 優は深い溜め息を吐いて、傍らのジュースを飲む。ダリアはご満悦だった。
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