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ゆっくりと、カオスの体が倒れる。
如何にヒルコの力を得ても、そもそもフツノはその類を斬る力があるのだ。
神である限り、フツノは天敵だ。しかしフツノに打ち勝つには神に匹敵する神秘が必要なのだ。
「何で、だよ・・・」
カオスが、崩れていく体を支えながら、それでも疑問を投げかける。
「何で、お前に勝てない。神の力を得た。俺は間違いなく真理に近付いたんだ、それなのに・・・」
「そんなの、くだらないよ。」
だからこそ、俺は否定する。否定するしかないんだ。
「魔術師達にとって、真理に至る事は最大の目標だ。だけど真理に至った者は、今度は真理を避ける。その理由は、知っているだろう?
俺の過去を見たなら、その意味は分かるはずだよ。」
しばらく呆けていたカオスだが、ようやくその意味に至ったようだ。
「『真理の番人』・・・そうか、それがお前の真実かっ!!」
パキッ・・・
何かの砕ける音が響く。分かってはいるがつい、右手を見てしまった。
そこにヒビがあった。
まるで硝子細工が砕けるように走るヒビ、それを何となく眺めている。この感覚は好きじゃない、だけど、終わる事もない。
「あは、あはははは・・・あははははははははははははははははははっ!!
惨めだ、惨めだなぁ、藤原優。お前は終わりのない地獄を生き続ければいい。」
それが、最後だった。砂のようにカオスは崩れていく。それを眺めながら・・・
「例え惨めでも、それでも俺は生き続けるんだよ。大切な、約束だからな・・・」
届かない言葉を送り、目を閉じた。
『精々苦しめ、世界の敵よ。』
最後に、カオスのそんな言葉を聞いた気がした。
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