序章

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「さて、これでアレン君の用件は一応終了だ。」 「俺の用件?ってことは……」 「私にもご用件がおありなんですね?」 紅茶を飲んでいたエリアが顔を上げる。 クルーメンスは少し迷った様子を見せ、机から1枚の羊皮紙をとり、残念そうな表情で眺めた。 「………2人とも、これから聞くことは決して口外してはならん。………約束してくれるな?」 真剣な声に2人は黙って頷く。 『……なんだろうな?嫌な予感しかしないぜ。』 空気を読まないランスロットの声がアレンにだけ聞こえていた。 「昨夜遅く、帝国から使者が送られてきた。」 「帝国から使者……ですか?」 エリアが意外そうに聞き直す。 帝国、ハインラウトの東に位置する、数年前に停戦を結んだガイラハルド帝国のことである。 帝国とは冷戦という状態から国交がほとんど絶え、国境を跨ぐことさえ難しい。 そんな敵国からの使者とあらば、ご機嫌取りの訪問ではないことはアレンにも理解できた。 「……その使者は何をしに来たんですか?」 「国交を取り戻そうと迫ってきたのですか?それとも停戦の延長とか………」 2人の問いに黙って手にした羊皮紙をテーブルに広げる。 長々と綴られた文面の最後に記された内容は、2人の予想を遥かに越えていた。 《………よって我が国、帝王国家ガイラハルドは、貴国、ハインラウト王国に宣戦を布告する。 開戦は年の始め、よって停戦協定は年の暮れにて破棄。 神の子、帝王の名において、神の理を捩曲げし魔王に血の制裁を与えん。》 2人は呼吸も忘れてその文面を見つめた。 頬に冷や汗が伝う。 「が、学長様……これって……つまり………」 「……帝国が宣戦布告してきたってことですか!?」 「……どうやら、本物らしい。今朝送った使者が道中で消息を絶った。恐らく………」 通常、使者を手に掛けることは重大な罪。 それをやってのけた帝国は、もはやまともに話が通じる相手ではない。 「………王国はこの事態を重く見ている。今は大臣と一部の上流貴族にしか知らせていない。………年の暮れまではもう3ヶ月を切った。もうしばらくすれば下流貴族や平民にも触れが出るだろう。」 「………待ってください、なんでそれを俺たちに…………」 エリアを見ると、拳を震わせながら愕然としている。 『…………相棒、文章は最後まで読めって習わなかったか?』 ランスロットの言葉に再び文面に目を落とす。
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