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魔法が日常に使われる世界。
その世界の一国、ハインラウト王国。
東の隣国、ガイラハルド帝国と冷戦状態にあるこの王国の、南東に位置するヴェストロン領は私のお父様が治める領地。
ある日、そのお父様が男の子を拾ってきた。
珍しい黒髪に黒い瞳のその男の子は、自分を『アレン』と名乗った。
しかも記憶を失い、自分の名前以外何も思い出せないという迷惑っぷり。
お父様の慈悲でしばらく面倒を見ることになったけど、そいつったら私を見るなり「童顔」だの「ちっこい」だの無礼な言葉をぶつけてきた。
おまけに「胸が……」だなんて、デリカシーのかけらもない発言!
信じられない!
でも、ただの平民の言葉に一々気を荒げるのはあまりにも愚行。
私は極力その存在を無視することに徹した。
杖を届けさせてあげたり、巨大なゴーレムから助けさせてあげたりした。
案外、この平民は剣が上手い。
すると、その剣が学長様の目に止まったらしい。
そいつは私たち貴族だけが通うことを許された学校、『グレイベルグ学園』に入学を許可されていた。
学園では貴族としての教養や魔法、剣や戦術を学ぶ場所で、確かに優秀なごく一部の平民にも入学を許されることがある。でもあいつがそのごく一部に選ばれたなんて信じれなかった。
しかもメイドのミーアまで入学することになってる。
小さい頃からの親友、アメリアは、どうやらアレンを気に入ってるらしく、気軽に話し掛けている。
別に平民に興味はないけど、なんとなくその様子は見ていて腹立たしかった。
入学してからも相変わらずなアレン。
事故とはいえ、乙女の大事な、ふぁ、ファーストキスまで奪いやがって………!!
周りの生徒にも(ほとんどは貴族だけど)人気があって、その様子がまた気に食わない。
事件を何度か解決した程度で調子に乗るんじゃないわよ!!
………ま、まあ熊の大群も倒すし、アメリアの許婚も決闘で倒しちゃうし、お母様の……幻想からも救ってくれたし……ちょ、ちょっとは頼れるかもしれないけど、それでも私が平民ごときに心惹かれるわけなんかないじゃない!
まったく……
………そんな忙しい日々の中、事件は起きた。
お父様が突然失踪してしまったのだ。
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