序章

3/18
前へ
/331ページ
次へ
魔法が日常に使われる世界。 その世界の一国、ハインラウト王国。 東の隣国、ガイラハルド帝国と冷戦状態にあるこの王国の、南東に位置するヴェストロン領は私のお父様が治める領地。 ある日、そのお父様が男の子を拾ってきた。 珍しい黒髪に黒い瞳のその男の子は、自分を『アレン』と名乗った。 しかも記憶を失い、自分の名前以外何も思い出せないという迷惑っぷり。 お父様の慈悲でしばらく面倒を見ることになったけど、そいつったら私を見るなり「童顔」だの「ちっこい」だの無礼な言葉をぶつけてきた。 おまけに「胸が……」だなんて、デリカシーのかけらもない発言! 信じられない! でも、ただの平民の言葉に一々気を荒げるのはあまりにも愚行。 私は極力その存在を無視することに徹した。 杖を届けさせてあげたり、巨大なゴーレムから助けさせてあげたりした。 案外、この平民は剣が上手い。 すると、その剣が学長様の目に止まったらしい。 そいつは私たち貴族だけが通うことを許された学校、『グレイベルグ学園』に入学を許可されていた。 学園では貴族としての教養や魔法、剣や戦術を学ぶ場所で、確かに優秀なごく一部の平民にも入学を許されることがある。でもあいつがそのごく一部に選ばれたなんて信じれなかった。 しかもメイドのミーアまで入学することになってる。 小さい頃からの親友、アメリアは、どうやらアレンを気に入ってるらしく、気軽に話し掛けている。 別に平民に興味はないけど、なんとなくその様子は見ていて腹立たしかった。 入学してからも相変わらずなアレン。 事故とはいえ、乙女の大事な、ふぁ、ファーストキスまで奪いやがって………!! 周りの生徒にも(ほとんどは貴族だけど)人気があって、その様子がまた気に食わない。 事件を何度か解決した程度で調子に乗るんじゃないわよ!! ………ま、まあ熊の大群も倒すし、アメリアの許婚も決闘で倒しちゃうし、お母様の……幻想からも救ってくれたし……ちょ、ちょっとは頼れるかもしれないけど、それでも私が平民ごときに心惹かれるわけなんかないじゃない! まったく…… ………そんな忙しい日々の中、事件は起きた。 お父様が突然失踪してしまったのだ。
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!

216人が本棚に入れています
本棚に追加