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秋晴れの空の下、2人はベンチに座っていた。
「アメリアさん、遅いですね。」
青い髪の女子が呟く。
彼女はミーア。
エリアの父親が治める、ヴェストロン領にある城にメイドとして雇われていたが、アレンの活躍によって入学を許可された、いわゆる選ばれし平民の1人だ。
「そうだね……きっとエリアが渋ってるんじゃない?」
そして、その横に座り、同じように呟く男子。
この黒い髪の生徒が、アレンである。
記憶を失った彼は、手掛かりを求めてこの学園へ入学したのだが、一向に記憶が戻る気配はない。
むしろ生活に慣れ始めてしまい、記憶への執着が薄れていた。
『おい、相棒。』
「やっぱりお疲れなんでしょうか?無理に誘うのは………」
「気にしなくてもいいと思うよ。どうせ疲れてなくたって寝てるだろうし。」
『お~い、相棒!聞こえてんだろ?』
アレンは頭に響く声を無視しながら会話を続けた。
どうやら自分以外には聞こえないらしいこの声。
反応すると周りに変な目で見られてしまう。
『……俺を無視するのか?試合に勝てたのは俺のおかげだろ?』
「でも、やっぱり疲れてますよ………アレンさんも疲れてませんか?」
「あ、ああ。まあね………」
『わかってんだろ?このランスロット様がお前に力を貸してやったんだ。感謝しろよ、感謝!』
「大丈夫ですか?無理しなくてもいいんですよ?」
「あ、ありがとう………」
響く声は相変わらずアレンに語りかける。
試合が終わってからずっとこの声に悩まされていた。
『お前だって見てただろ?あの華麗な剣術、魔法!あの金髪にだって、俺が手を出さなきゃ負けてたんだからな!』
確かに、試合の最後の数時間、アレンは不思議な感覚でその様子を見ていた。
意識はあるが、体を支配していたのは別の何か。
恐らくこの声の主が動いたのだろう。
『……まあいいや、話す気になったら呼んでくれよ、相棒。』
「あ、来ました来ました!」
やっと声から解放されたアレン。
ため息をつく間もなく、その場にエリアとアメリアが到着した。
「待たせたね!」
アメリアは相変わらず元気な声で話す。
待たせた本人のエリアはその後ろでむすっとしていた。
正直、アレンは頭に響く声について学長に相談をしたかったのだが……
「さ、行こう!」
アメリアの無邪気な誘いを断る度胸は持ち合わせていなかった。
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