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広大な学園の敷地の両端、東と西1つづつ塔が建てられている。
5階建ての東塔最上階、そこには学長、クルーメンスの部屋がある。
普段から生徒は立ち入る機会もなく、もちろんアレンやエリアも例外なく緊張している。
「い、行くわよ……」
「あ、ああ。」
エリアがゆっくりと扉を叩く。
「……学長様、エリア・ファン・ディル・ヴェストロン、参上しました。」
「入りなさい。」
中から声が届く。
慎重に扉を開けるエリア。
アレンも後ろに続いた。
「……やあ、2人とも試合はお疲れ様だったね。まあ座りたまえ。」
「失礼します。」
出迎えたのは真っ白な顎髭を生やした老人。
王国の統治に直接関わる、六大臣のトップ、クルーメンス。
2人が着席する。
先に来ていた生徒がその様子を見て笑っていた。
「よう、アレン、エリアさん。」
「エルティズ!どうしてここに?」
「学長様直々のお呼び出しがあってな。」
「うむ、私が呼んだんだ。」
アレン達より先に来て着席していた金髪の生徒、エルティズ。
彼はミセア校舎の生徒で、アレンとは交流戦で切り結んだ仲である。
注がれた紅茶の減り具合から、結構話していたことがうかがえた。
「……さて、本人も来たことだし、話を始めようか。」
クルーメンスが紅茶を2人に差し出す。
「話というのは他でもない、アレン君、君のことなんだ。」
「俺の……?」
『こいつは誰だ?ただのじいさんじゃないな………』
ずっと黙っていたランスロットが急に話し出す。
その声にはわずかに警戒した様子がある。
「君に宿る何かについてだ。心当たりはあるだろう?」
「………えっと……」
言い淀んだアレンにクルーメンスが笑いかける。
「大丈夫、ここにいるのはそれを見た人間だ。違うかい?」
エリアとエルティズには交流戦の時、ランスロットに操られたアレンを目にしている。
クルーメンスも外からその様子を見ていたらしい。
「……剣を交えた俺にはわかりました。あれは明らかにアレンではなかった。」
「……私もそう思います。」
2人にそう言われ、アレンは否定もできずに頷いた。
「……エルティズにやられそうになったとき、声が聞こえたんです。気づいたら………エルティズを切り伏せてました。」
「その声は今も?」
「……はい、たまに。」
通常では考えられない証言だが、あのアレンを見た後では信じる他にない。
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