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気持ちを落ち着かせようと、アレンは紅茶に口を付けた。
『相棒、俺はランスロットだ。』
「………そいつは自分をランスロットと名乗ってます。」
響く声をそのまま伝達する。
それを聞いたクルーメンスが納得の表情になる。
「……やはりな。どれ、本人に会ってみるとしよう。」
「どういうことですか?」
「アレン君、少し力を抜いていてくれるか。」
真面目な顔でクルーメンスが杖を握る。
長年使われてきたのであろう、細かい傷のある長めの杖。
朗々と詠唱を始めたクルーメンス。
その様子を不思議そうに見るエリアとエルティズ。
しっかりと魔法を学んでいる2人でさえ、全く聞いたことのない呪文だった。
「……うっ……っ………」
長い詠唱の後、アレンが意識を失う。
「が、学長様、何を!?」
うなだれたアレンの肩を支えながら、エリアが驚き叫ぶ。
戸惑うエリアには答えず、クルーメンスは落ち着き払って口を開いた。
「……ランスロット卿、もしよければ出てきてはくれないか?」
「………驚いた。《魂の解放》なんてとっくに忘れられた魔法だと思ってたのにな。」
アレンの体が青白く発光し、何かがその体から抜け出した。揺らめく炎のような、青白い光がクルーメンスの前に立った。
「だ、誰……?」
「俺はランスロット。小娘とはこの前話しただろ?」
人の形になった光は、鎧に大剣を背負った、絵本に出てきそうな騎士の姿をしている。
「あの伝説の……ランスロット卿………」
「ああ、正真正銘、裏切りのランスロットさ。」
両手を広げてエルティズにその姿を見せる。
エルティズは唖然としたまま固まっていた。
「ランスロット卿、時間がない。質問に答えてもらえるだろうか?」
「ああ、なんなりと。」
おどけた口調のまま、ランスロットはクルーメンスに向き直る。
「……何故、この若者を宿主に?」
「覚えてない。気づいたら取り憑いてたんだ。」
「何故体を乗っ取った?」
「俺にもわからない。宿主が死にかけたからか?今までには……そうだな、同化しかけたことはあったかな……そこの小娘は何度か見ているはずだが。」
ランスロットに話を振られ、思い返すエリア。
確かに、今までにもアレンが突然容姿を変え、桁外れな戦闘技術を見せたことがあった。
「正直なところ、記憶があやふやなんだ。その点、相棒と俺は似てるのかもな。」
飄々とした態度で語るランスロット。
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