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オリジンは後退しようとしたが、踏み止まる。
一刻も早く逃げなければならないのだけれど、どうしても眼前の許せない行為を見逃すわけにはいかなかった。
男が踏み付けた花壇の花は、ツバキが毎日手入れをしているものだったのだ。
「おい、その汚らしい足をどけろだぜ!」
自分でも馬鹿だと思う。
そんな事より自身の命を優先させなければと思う。
それでも、目の前の男の行為は許し難かった。
「それはツバキが一生懸命育て上げた花なんだぜ。ツバキの、大事なものなんだ!」
そう叫ぶも、男は関係なしにずかずか歩いてくる。
可憐に咲く花々を踏み散らかして。
足が震え、額からは汗が流れる。
心臓をわしづかみにされたような戦慄が、身体を襲う。
「馬鹿なガキだ……」
男はオリジンののど元に、ナイフを突き付けた。
冷たい感覚と恐怖とが混じり合い、声が出せない。
がたがたと、凍えるように身体が揺れた。
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