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「そういえば、いつもの薙刀は持って来てないのですか?」
「あぁ。黒蝶なら置いて来た。ここでの稽古は竹刀の方が良いから」
何処からか取って来た竹刀を握ると和葉は、軽く素振りをして見せた。
沖田と和葉が入って来たのを見て、隊士らが開けてくれた空間。
沖田はそっと羽織を脱ぐと、風車と共に冷たい床に置く。
「稽古って苦手なんですよ。別に私でなくても……」
「沖田さんが良いんだ! 一本お願いします」
和葉は適当に隊士から見繕った竹刀を投げる。面倒臭げに受け取った沖田は、一度軽くしならせると構えもせず手を降ろした。
その珍しい光景に、一同が釘付けだ。
「仕方ない、これは風車の分ですからね。いつでもどうぞ」
薄く微笑む沖田を見届けると、和葉は竹刀を構え直し一気に飛び込む。
「はぁぁああ!!」
ヒュン――
目にも止まらぬ速さ。
だが、振り下ろした先には沖田は居ない。いつの間に動いたのか和葉の真横に立っていた。
「……くそっ!」
(気配すら感じなかった)
避ける動きだけで、沖田が強い事は伝わる。
だが和葉にとって、それは恐い事ではなく“楽しい”事だった。
ヒュン――
シュン――…
どれも素早く力強く、無駄の無い攻撃。普通の人間なら気絶では済まない。
それも、沖田の前では虚しい空振りに過ぎなかった。
(そろそろ終わりましょうか)
沖田は微笑みを止めると、竹刀を右斜め上段に構える。
「やっと攻撃してくれ――」
和葉が竹刀を握る手を強めた瞬間、沖田が消えた。
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