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(……ど、こ?)
攻撃してくると構えていた和葉は沖田を見失う。
その僅かな時間で沖田は和葉の前を横切ると背後に回った。
トン――、
気付けば、乾いた音が無防備な和葉の左腹を突いていた。
「あ……」
「私の勝ちですね」
もし真剣なら命は無かった。
こんなにも簡単に、汗一つ滲ませず勝負を決めてしまう、
和葉は言いようのない敗北感にガクリと膝から崩れる。
「天然理心流、燕斜剣。免許皆伝の攻撃技です」
「やっぱり……沖田さん……女々しいっての撤回します」
出来る限りの笑顔で、和葉は見上げた先に居る沖田に言った。
「有り難うございます」
流れるような動き、しなやかな剣捌き、やはり沖田はただ者ではない。
(自分も早くこんな風に――)
プチン、
立ち上がろうとした所で、奇妙な音がした。見れば和葉の持つ竹刀の弦が弾けている。
「ご……御免。壊すつもりは無かった」
「大丈夫ですよ。少し古くなっていたのでしょう。和葉さん、激しく動いてらしたから」
沖田は和葉から竹刀を預かると、全ての竹刀の弦を外した。そして四本の竹へと分解させている。
「何で、ばらばらに?」
初めて見る事に、和葉の目が輝いた。
「これは、ただ単に竹刀の修繕ですよ。古くなった竹を入れ換えて、弦を新しくする、特に凄い事ではありません」
話しながらも沖田は器用に古い竹を抜いてゆく。他の竹刀と竹を交換すると、慣れた手つきで弦を巻いた。
何年も剣術をやって来た沖田には当たり前の作業。
「じ、自分もそれやりた――」
――バタン!
和葉が口を開くと同時に、道場の扉が開いた。
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