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実は和葉、人並み外れて器用であった。裁縫や料理、その見た目からは想像もつかない特技を持っている。
「他に修繕したい竹刀ありますか?」
その為か初めてとは思えない程、器用に竹刀に弦を結ぶ和葉。鼻唄まで歌い出しそうな勢いだ。
隊士らも自分の竹刀を差し出す。何とも道場内とは思えない穏やかさだった。
「……器用でござるな」
スッと和葉の横に腰を降ろした一人が、呟いた。
「まぁ、これでも下男だから……細かい作業は本業だ――って、斎藤!?」
チラリと横目で見遣った和葉は、ふてぶてしい横顔に素っ頓狂な声を出した。
「……ん?」
「いつの間に。ってか、今まで何処に?」
「拙者はずっと道場に居たでござるが」
素っ気なく答える斎藤は、和葉の器用な指から目を離さない。
「ある意味凄い存在感だな……斎藤の竹刀も修繕しようか?」
和葉が苦く笑うと、斎藤は首を振る。
「天丼美味かったでござるよ」
「…………」
脈絡のない返事に和葉はポカンと口を開く。
「あぁ、教えてやった奴か……お前さぁ、もう少し会話の流れを……」
「すっかり秋でござるな」
(無視かっ!)
初対面の時から変わらぬ斎藤の持つ空気には、随分と慣れたはずだが、和葉は溜息をつく。
道場から見える空は、高く晴れ渡っていた。
「斎藤、お前は会議に出なくて良いのか?」
「ん。近藤殿からは朝餉で聞いたのでな……」
僅かに眉を寄せた斎藤に、和葉は問うた。
「何の話なんだ?」
「…………秋の嵐でござるよ」
斎藤は垂れた前髪をかき上げると、そう囁いた。
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