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その頃、とある部屋では幹部を集めた会議が始まっていた。
「先日の池田屋事変だが……」
切り出したのは近藤。
ザッと辺りを見回せば真剣な顔付きが窺える。
巡察などで勢揃いとはならなかったが、近藤はその逞しい姿に安堵し、続けた。
「わしらは尊皇攘夷派……いや、今は倒幕派か。どちらにせよ奴らの狂気満ちた暴挙を見事止める事に成功した。
だが、一方で、それを是とせん輩が動き出そうとしておる事も確かだ。
いや、正確には……八月十八日の政変の時から、燻っておったのかもしれんがな」
八月十八日の政変とは、会津藩などの公武合体派が長州を含めた尊攘派を京から追放した、革命である。
勿論、新撰組も関わっており、会津から正式な名を賜った大切な事件でもあった。
「つまり、彼らが報復に来るのですか?」
近藤の横を陣取る沖田が、ぼんやりと言う。
平たく言えばその通り、その的確な発言に近藤は頷いた。
「せっかく頑張ったってのに、僕達の活躍は長州らの呼び水になっちゃったんスね」
珍しく藤堂も会話に加わる。額に巻かれた包帯を撫でるのは無意識の癖となっていた。
こうして命を懸けて戦った池田屋で、関係悪化を促してしまった事が悔しいのだ。
「仕方ねぇだろうな。あのイカれた連中に何仕掛ても意味ねぇんだよ、今更」
スゥー、紫煙を燻(くゆ)らすと土方は涼しげな目元で薄く笑みを零す。
「だったら斬っちまえばいいんだよ、近藤さん」
そう言う土方の双眼は、鋭い光を放っていた。
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