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元治元年七月上旬――…
京の町は華やかに色めく。
動乱とも呼ばれる浮世の中であれど、人々の明るい声は絶える事はなかった。
祇園祭を終え落ち着きを取り戻した京の都。巻積雲の広がる空は蒼く、冷たくも温い秋風が吹く。
くる、くるくる――…
赤い赤い風車(かざぐるま)が回る。
落とし物だろうか。
道の端に刺されたそれは、ただただ風に身を任せていた。
「花かと思えば、風車か……」
足を止め、しゃがみ込むと右手を伸ばす。
待っていたかのように強く回転する風車。それを手に収めると、思わず笑みが零れた。
「一緒に行こうか?」
そして囁くように言うと、再び足を進めるのだった。
ほんの数年前、会津藩配下の京都守護職として疾風の如く現れた集団がある。
――その名は“新撰組”
町人からは恐れ疎まれ、その仕事が故“人斬り”とも呼ばれていた。
だが、まるで剣の為に生まれてきたような真っ直ぐで純粋な彼らの志が揺らぐ事はない。
何故なら彼らの背中には貫くべき、護るべき“誠”があるからだ――…
ギギィ……
とある屋敷の前に着くと、中から騒がしくも威勢の良い掛け声が響く。
慣れた手つきで門を押すと、その声と熱気は一層増した。
「……稽古に来た」
取って付けた様な短い言葉を吐くと、赤い風車を握り迷う事なく中へと入ってゆく。
京の壬生の一角に構えられている、ここ【新撰組屯営】。
この屋敷こそが、誠を掲げる彼ら――新撰組の宿舎であった。
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