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「ど、どうしたんですか!! まさか傷口が開いたのでは……」
沖田があわてふためくのも無理はない。
今にも潰れてしまいそうな小さな身体には、数え切れない程の傷痕がある。
一番最近では右肩に、ざっくりと斬り傷。
そんな心配を余所に平然と立ち上がると、地面に落ちていた眼鏡を掛けた。
「いや、眼鏡を忘れてたんだ」
「…………」
「ほらっ、邪魔だから外してたんだよ」
「…………ぷっ」
沖田は長い沈黙の後、吹き出した。
自慢げに掛ける眼鏡は大きすぎ、顔の半分の面積を覆っている。ずり落ちるのを手で押さえているが、もはや“眼鏡”の意味はなかった。
何より――、
(似合わなさすぎる!!)
「何だよ、沖田さん」
「ぷぷっ……あはは――っ! 和葉さん、変ですよ。くくっ、それじゃあ、眼鏡という名の仮面ですね。あははっ」
どうやらツボに入った沖田は、腹を抱えるとケラケラと笑い出した。
その様子に暫く耐えていたが、プチンと青筋が立つ。
「沖田さん、悪かったですね。いっそ、手持ちの苦無を目に刺してあげましょうか? そうすれば、この不細工な面も見えないぞ」
そう言い殺気立つが、沖田は顔色一つ変えない。
笑いすぎて出た涙を指で拭うと、その手を伸ばし眼鏡を取り上げた。
「……ぇ……あっ、やめろよ!」
沖田の素早い動きに反応すら出来なかった。
慌てて取り返そうとぴょんぴょんと跳ねるが、頭一つ分高い沖田が目一杯伸ばした手に届くはずもない。
「どうして眼鏡を?」
代わりに返って来たのは、当然の疑問だった。
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