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沖田が“和葉”の名にピクリと反応するも、突然言葉を切った若葉。
「――まぁ、何でもない」
「どうして? 続き、教えて下さい。気になっちゃうじゃないですか」
「嫌や。これは推測やし、何より沖田はんに伝えるんは野暮やと思うから」
(それに多分、無自覚やし)
若葉は俯き呟くように言うと、上体を起こす。その一つ一つに沖田はハッとさせられる。
「顔に何か付いてる?」
「いえ、とても似ているなぁと思いまして。顔立ちとかではなくて、仕草や言葉が……その、そっくりで」
土方に対する言動といい、先程の一芝居といい、若葉は少し男勝りだ。
まるでそれは和葉のようで、沖田は微笑ましく感じたのだ。
「女子が“男”の和と似てるって言われて喜ぶ思いはる?」
「あ、いえ……別に、そういう意味じゃ」
「えぇよ。うちにとっては褒め言葉やし」
クスクスと笑った若葉に、沖田は苦笑する。
一枚上手、それ以上に今まで出会った事のない性分の若葉に、恐縮せざるおえない。
「時間はあるんやっけ」
「はい、一応は」
「そやったらお相手してくれます?……寝物語の」
「?」
若葉は不意に声色を落とすと、近くに置かれていた書物に指を沿わせる。
和葉の読み掛けだろうか、半紙による栞が挟まれていた。
「せっかく此処に来たんやから、あの子自ら話すはずないから、沖田はんを信頼して喋らせて? 今から語るのは物語。この書物と同じ空想……ただの遊女の独り言、そう思って聞いてくれる?」
「それは、一体……」
「血の繋がってない可愛い妹の話。うちがこの浮世で一番大切な少女の話。知りたい?」
若葉が沖田を見上げれば、真実を求めるような透き通る瞳と目が合う。
「……知りたいです。どうか、お聞かせ願えますか?」
それが今まで触れる事のなかった彼女の話なら……、沖田は丁寧に頭を下げた。
「分かりました。沖田はんにお話し致しましょう。少女が“少年”として生きるまでの、数奇な物語を」
そうして若葉はゆっくり口を開いたのだった。
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