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「ち、違うからっ! 変な意味で言ったんじゃなくて。そんなに否定しなくたって和葉は――…いや、大体は覗いた僕が悪いし」
「いいって、自分は。ぷぷっ、動揺し過ぎだ」
流石に見兼ねた和葉が苦笑する。藤堂は黙って小さく頷いた。
「だって、凄く驚いたんだ」
「悪かった……その、自分が男じゃない事、言わなくて。そりゃ、驚くよな」
「責めてる訳じゃないよ!」
先程よりも強く手ぬぐいを握り締める和葉の手を堪らず藤堂は掴んだ。
「ちゃんと話せば良かった。けど、その時期が自分には窺えなくて。単純に話すのが面倒だったし……それに、もし伝えたら、平助は自分から離れちゃう気がしたから。女って言えば、今までみたいに接してくれないと……思ったから。怖かったんだ、自分は」
和葉はギュッと唇を噛むと、藤堂を見つめた。
「平助に嫌われるのが」
「隠していた事は、良くないと思う。けど、和葉は僕の事そんな薄情な奴だと思ってたの?」
「……違っ」
藤堂はゆっくり握った手を離すとニコリと微笑んだ。
「男だって女だって、関係ないよ。僕は和葉がどんな姿でも、どんな告白をしても、何とも思わない。だって……それが仲間でしょ?」
「平助」
大きく目を見開く和葉の前髪に、藤堂はそっと触れる。
「そんなに信用ない? 僕は」
「違う、違うんだ。自分はただ平助に――」
嫌われたくない、その言葉を言い切る前に、和葉の身体は藤堂に引き寄せられた。
存外逞しい腕に包まれても尚、和葉は首を振るのを止めない。
「分かってる。和葉は水臭いよ。そんな事で和葉を嫌いになったりしない。でも、いいよ。隠してた事はもう、怒ってないから」
「……有り難う、平助」
頭の上でそう囁いてやると、和葉はハッと顔を上げた。
やや潤んだ目に珍しく真っ直ぐな笑顔、藤堂の顔は一瞬で熱を持つ。
(ほんと、嫌いになる訳ないじゃん……好きなのに)
そう自覚した途端、華奢ながら柔らかな肌や匂いに、どうしようもなく藤堂は愛おしさを感じた。
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