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男だと思っていた和葉に恋をした。惚れたのだ。
もし女だと分かった途端にその心を明かせば、今までの気持ちと矛盾してしまう気がした。
思わず抱きしめた事も、ただの下心になってしまう。
藤堂はその事に思い悩んでいた。腕の中にある温かさが、酷く息苦しい。
だが身体を離す事も出来ないまま、沈黙が流れる。
「ね、和葉。今日何があったの?」
暫くして、藤堂は悩みを内に秘めたまま、ごまかすように口を開く。それはずっと頭にあった最初の疑問。
和葉は小さく肩を震わせると、苦笑した。
「……何もない。大丈夫だから。何もない」
「ほらまた、虚勢を張る。和葉、僕は信用ない?」
「本当に自分は、何も……ただ反省しなきゃいけなくて、けど、分からなくて……」
少し怯えたような声を出す和葉を藤堂は見つめる。
「髪も結わず着物だって乱れてたし、泣いて――っまさか暴漢!?」
「ち、違うから……うん、違うから」
ぶんぶんと大きく否定した和葉は、藤堂からそっと身体を離す。
「でも風呂場で見た時、服では隠れてた部分が痣や傷だらけだったじゃんか」
「やっぱり全部見たんだな」
「……いや、それは……」
あの一瞬でそこまで把握している辺り、流石と言うべきか。
和葉は自身を抱きしめると、じとっと藤堂を見遣る。
「助平」
「か、か、和葉ぁ!?」
「ぷっ、冗談だ。正直、その事は明日にでも忘れそうな位、何とも思ってない。けど……痣や傷の事は聞かないでくれ。昔の、ちょっとした……痕だから」
ケラケラと藤堂の動揺する顔に笑った和葉は、最後に丁寧に言った。
検索するな、強く念を押すような目に藤堂は頷く。
「もう、聞かない。じゃあさ、一つ。和葉は何で新撰組へ?」
「……強くなれるって思ったから、かな」
和葉は恥ずかしそうにそっぽを向く。
「沖田さんに唆(そそのか)されたのもあるんだが……単純に、強くなりたかった。新撰組に居れば、もっと自分は高みを目指せるんじゃないかって」
照れたように答える和葉。その表情はどこまでも清々しかった。
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