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「ちょ、ちょっと待って! 話の流れからして、和葉の事を総司さん知ってるの?」
「まぁ……一番最初に自分が思わず口走ったんだが。後は、土方さんや永倉さん達も」
思わぬ事実に、藤堂はがっくりと肩を落とす。
初めて和葉が新撰組を訪れた日に居合わせなかったのだから、仕方がない。
それにしても余りに悲しげな顔をする藤堂に、和葉は肩を竦める。
「あれは成り行きだっただけだし。それに今知ったんだから、いいじゃないか」
「それでも自分だけ蚊帳の外だった訳でしょ。もー、何か損した気分だよ」
誰も屯営で和葉を女扱いしない。普通の隊士以上に厳しい稽古を目撃しているだけに、藤堂の衝撃は大きいのだろう。
「馬鹿平助。自分は自分の事を決して女扱いしないから、新撰組が居心地が良いんだぞ。昔、女を捨てた。生きる為に、男になったんだ」
和葉は真っ直ぐと深い漆黒の瞳を藤堂だけに向ける。張り詰めたような空気が、静かな部屋に流れた。
「けど、本当は自分に性別なんて要らないんだ。強くなりたい……ただそれだけ。己の誠が貫けるなら、他に何も要らない。女も男も、名誉も地位も」
目を逸らしたくなる程の強い眼差し。凛と声が響く。
「平助、自分はさ……強く生きたいだけなんだよ」
「――っ」
藤堂の心の臓が跳ねた。
時が、藤堂の呼吸が、止まる。
(……何だ、簡単な事じゃないか)
もやもやと澱んでいた心が、晴れてゆく。悩みが、音もなく消えた。
藤堂が慕うのは、男でも女でもなかったのだ。
(僕が好きなのは――“和葉”自身なんだ)
惚れたのはその儚げで強い想い、ゆるぎない意志、誰よりも美しい誠だった。
全身に電流を走らせるような、藤堂をどこまでも捉える、目の前の“心”に恋をした。
「―――ねぇ、和葉。少し僕の話聞いてくれる?」
だから、伝えよう。
今この瞬間、湧き出るこの気持ちを。
藤堂は微笑んだ。
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