18.恋焦ガレテ

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       *** 聞きたかった事実は、 知りたかった真実は、 耳を塞ぎたくなる程に、 逃げ出したくなる程に、 苦しかった。 それでも若葉の言葉は、沖田にはっきりと届く。拒絶する事より先に。 「―――和葉さんは、お禿さんだったと?」 「そう。孤児として生きていたあの子が拾われた場所が偶々(たまたま)遊郭やっただけ」 名前を与えられるより先に両親に捨てられた少女。拾われた先が遊郭・大坂新町。 偶然だと言えば、偶然。 運命だと言えば、運命。 「あの子ね、ずっと新町で酷い扱いを受けてたんよ」 「……え」 「元々、あの子は真っ直ぐな子やから、何か逆らったんやろな。そっから楼主に目の敵にされてたらしくて」 苦しげに唇を噛む若葉。唇には血さえ滲んでいた。 「うちらもやけど、孤児のあの子にとって衣食住を与えてくれた楼主へは絶対服従。反抗する事は勿論、逃げる場所すらもない……」 あの時の声が蘇る。 沖田の知らない“少女”の声。 何度も繰り返した楼主への震えた『ごめんなさい』の言葉が全てを語るようだった。 命乞いをするような、消え入りそうな懸命な声。 軽い眩暈がする。 「沖田はん、あの子の裸……見た事ありはる? 未だに消えない痣や傷が無数に残ってるんよ。あの子、女の子やねんで?」 ポタリ、若葉の手で涙が弾ける。怒りや憎しみ、そんな憤りを込めた声が続く。 「躾、折檻……そんなんやなかった。殴る蹴るは日常茶飯事。煙管を押し付けられたりもしたんやて。食事も与えられず、残飯漁り。毎日が、拷問、地獄やった」 「そ、そんな……事……っ」 あの透き通る瞳から、誰がそんな過去を想像出来ようか。 無愛想で、それでも素直で、あの美しい心から、誰がそんな苦しみを想像出来ようか。 受けた事ない痛みで身体が震える。首を絞められているように息苦しい。 沖田は気丈に笑う姿を頭に浮かべる度に、どうしようもない虚しさと辛さに襲われた。 信じたくない――過去、そして真実だった。  
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