18.恋焦ガレテ

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  「宴会の目を盗んで楼主はあの子を……押し倒した。それで、あの子を襲おうとしたの」 バサバサッ、 積み上げていた書物がまるで何かを訴えるように崩れ落ちた。 「――っ」 言葉が出なかった。 「言い方は悪いけど、そういう事はよくあるんよ。禿の、その……貞操を。けど普通は無理矢理なんて有り得へん……はず」 決して許されざる行為、だが世俗から孤立した廓の中でその常識は通じない。やはりそれは古くから、目を逸らされ続ける問題であり。 切なげに目を伏せた若葉に、沖田は何も言えはしなかった。 「もしかしたらそれが心の合図やったんかな。襲われそうになったあの子は衝動的に楼主に殴り掛かり、そんで店を飛び出した……」 あの子らしいでしょ、そう言って薄く笑う若葉に、沖田は胸が締め付けられる。 ―――ズ―キン、 「私は……最低です」 聞かずとも分かる。 その楼主の行為がどれほど、和葉に傷を与えたか。必死に苦痛に耐えた毎日を全て捨ててしまう程の衝撃、恐怖が和葉を襲ったのだから。 あの怯えた瞳、震えた声、それが全てを物語る。 沖田のした事は、楼主のそれを彷彿させる行為だったのだ。 「……私は、私は……和葉さんに、」 上手く言葉が紡げない。 消えてしまいそうな、泣き出しそうな表情を浮かべていた和葉。今なら分かる。 あれは、過去の楼主と沖田を重ねていたのだ。 『沖田さん』そう儚げに言った和葉に沖田がしてしまった事。 それは、想像以上に深く重い罪なのだ、と気付いた時にはもう遅い。 「すみません……すみません、でした……」 「うちに謝っても、過去は変わらへんよ?」 怒っている訳でもなく、ただ静かに囁いた若葉は沖田を見つめた。 (ちょっと虐め過ぎたかな?) 嘘は吐いていない。だが、今の沖田へは辛い話をした事に後悔した。 話をしたのは、和葉を想っての事。そしてもう一つ。 (和が沖田はんの話ばかりするやもん) そのちょっとした嫉妬心。  
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