18.恋焦ガレテ

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  「沖田はんさぁ、あの子に頼られてるとか自惚れてた。けど何も話してくれへんかった事に落ち込んだって所?」 「い、いえっ、決してそんな事は――…」 素早く否定してみたものの紛れも無く的を得た言葉に、語尾を濁す。 沖田は己の浅ましい心を恥じた。そして小さく首を縦に振った。 「違うで」 「分かってます。私は、彼女からすればただの友人で……頼られる期待をしていた、だなんて……何だか、私――」 「だから、違うって!」 部屋に響く鋭い若葉の声に、びくりと沖田の肩が揺れた。 「あんな……憧れの相手に、あの子が弱みなんて見せると思う?」 「……憧れ……?」 若葉の言葉に、沖田の心の臓が大きく跳ねる。 「そう、憧れ。あの子は絶対に意地でも沖田はんには弱みを見せへん。それは負けず嫌いやから。憧れの人に負けたくないから……やと思う」 「――!?」 思わぬ事に沖田は目をしばたたかせる。ただただ驚くばかりだ。 「あー、自分で言ってて悔しい。だって、あの子暇さえあれば沖田はんの話やで? 愚痴かと思えば褒めたり、今日は何やった、明日も稽古したい、そんなんばっかりやもん」 うちなんか蚊帳の外や、口を尖らせて言う若葉。だが、その瞳は優しく沖田を見つめる。 「和葉さん、そんな事……」 「うん。羨ましいわ」 嬉しいはずなのに息苦しくて、頭に過ぎる顔は毒のように心を締め付けて。 それでも、和葉の中に自分が存在している事が堪らなく幸福で。 「沖田はんが反省するのは勝手。そやけど、それを理由にあの子から離れなあかんとか、距離を置こうとか、考えんとってくれへん? 生きるのが下手くそなあの子にとって沖田はんは必要な存在やと思うから。そやから、お願い。 ―――逃げんとって?」 伝えたかったのは、初めからこれだけだった。若葉は丁寧に丁寧に沖田へ想いを伝える。 暫くの沈黙の後、返って来たのは沖田の微笑みだった。 「逃げる訳……ないじゃないですか。嫌われたって、避けられたって、離す訳ないじゃないですか……」 (こんなにも愛おしい和葉さんの事を)  
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