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「そ。けど、あの子の事ばっか考えとったら……恋仲の女子が怒りはらへんの?」
悪戯っぽく目を細め沖田の顔を覗き込む若葉。
だが、目の前の美しい青年は戸惑うばかりだった。
「恋仲?……えっと、どなたのでしょうか……」
問い掛ける焦げ茶の瞳はどこまでも真っ直ぐで、若葉は拍子抜けする。
「へ? おらんの?」
「い、居ませんよ。私は最近まで女子とろくに会話も出来なかったのですよ。何より、剣一筋で生きてきた私にとって、女子と関わる機会など、ありませんでしたから」
静かに首を振る沖田は嘘を言っているようには見えない。
ガクリ、若葉は大袈裟に肩を竦めると手を額に宛てた。
「あの早とちり馬鹿っ! 何一人で勘違いして凹んでんねん。もうっ、うちは真剣に――」
「若葉さん?」
「いや、気にせんとって。うちが助けたる必要はない。誤解はあの子自身に解かせるわ」
(この状態を気にしない訳には、いかないんですが……)
くしゃりと髪を掻き乱しながら何かに怒る若葉に、沖田は苦く笑う。
とても上品とは言えないが、それでも一つ一つの媚びない動作が新鮮で美しい。
本人は自覚していないだろう。だが、きっと“双葉”もこの様な女子だったのだろう、沖田はそう思った。
血は争えないのだ、と。それは微笑ましくすら感じた。
「はぁー、そっか。あの子の勘違いか。何か知らんけど、こっちまで安心した」
「あの……一体さっきから何を……」
診療所で悠と居た現場を和葉に見られていたとは、それを若葉にまで話されていたとは、露知らぬ沖田は首を傾ける。
若葉は思わず全てを言いそうになるが、それを抑えると手を振った。
「大したことやない。けど、次会ったら『私には恋仲の女子は居ません』って言って」
「それは……和葉さんにですか?」
「うん、あの子に」
何故、とは尋ねない事にした。
ただ若葉の言葉から察して、和葉が沖田には恋仲が居ると誤解している事は分かる。
「私が……恋仲なんて、作る訳ないじゃないですか……」
小さく呟いた沖田の言葉に、若葉はクスリと微笑んだ。
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