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だからこそ、山南と誓った約束をより一層強く思い出すのだ。
「ただ私は、彼女の傍に居てあげたいだけなんです」
「…………」
「私には何も出来ないですが、彼女が笑う時も泣く時も、横で共に笑い、その涙を拭い、見守ってやりたい」
永遠は誓えない、だが、この身が続く限り、心を捧げよう。
強がりで、頑固で、そして寂しがり屋な愛おしい彼女を見守る存在であろう。
「昔、とても敬愛していた山南さんという方と約束したんです。逝く時まで彼女の傍に在る、と。彼女が自身を見失わぬよう、自身の存在を否定せぬよう、と……」
かつて沖田の和葉への想いを山南に語った夜、彼は言った。
『彼女の生きる“意味”でありなさい』と。
それは山南が死んでも尚、強く強く沖田の心を繋ぐ。
「私は、強く生きたいと願う彼女の意味となり、傍に居ると誓います。和葉さんを決して独りにはしない」
人はどうすれば、こんなにも優しく切ない“愛”を抱けるのだろう。
若葉は、沖田の儚くそして幸せそうな表情に息を飲んだ。
鬼神と呼ばれ、人斬りと蔑まれ、そんな彼を何がここまでするのだろう。
ある意味では怖い程に。
清々しい程に純粋で。
若葉は思った。
もう、大丈夫だ――と。
和葉にとって彼の存在は大きく、沖田にとっても彼女の存在は大きい。
出る幕はないのだと、ひしひし痛い程に気付かされた。
和葉はきっと生きる事に二度と迷いはしないだろう。
「いつから? いつから和を想ってくれてたん?」
すっかり夜となる町。
島原の華やかな提灯の明かりが、部屋を薄く照らし出す。
「最初から、です」
沖田は今度はしっかりと若葉を見つめると微笑んだ。
「きっと、最初から好きでした。私は初めて彼女に出逢った時から、和葉さんが好きです」
迷う事なく戸惑う事なく、想いは溢れる。己の感情を言葉にしてやっと理解する。
満たされる気がした。
沖田自身足りないと感じていた、昔、得る事のなかった感情。
「ずっと、恋焦がれています」
気付いた今、沖田は心から和葉を愛おしいと感じた。
そんな秋の夜の事――…
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