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「……寒い……」
あれから数日後――、
和葉は布団から上半身のみを起こすと、小さく呟いた。何一つ変わらぬ殺風景な自室に隙間風が抜ける。
窓から見える島原は薄暗く、自分が思った以上に早く起きた事に気が付く。ぺたりと窓に張り付いた橙色の葉が、切ない秋の終わりを伝えていた。
(もう……冬なんだな)
すっかり視界は澄み切り、頭も冴える。
和葉は包まっていた掛け布団を払い退けると、枕元に置かれた浴衣を見遣る。それは先日、伏見の宿屋で借りたものだ。
『―――ねぇ、和葉。少し僕の話聞いてくれる?』
そう言った藤堂。
聞かされた言葉。
それを和葉は一字一句鮮明に思い出す事が出来る。
…………
……
数日前、宿屋――
『どうした?』
いつもより強張った表情に和葉が尋ねれば、藤堂は和葉をじっと見つめた。
『僕は和葉が好きだ』
『……!?』
それは余りにも唐突で、飾り気のない、真っ直ぐな告白だった。吸い込まれそうな瞳に和葉は息を飲む。
急に熱を持つ身体はきっと、風呂のせいではないのだろう。
『伝えなきゃ、って思ったの。今この瞬間に、好きって』
『平……助……』
和葉とて、そこまで馬鹿ではない。また、沖田程の鈍感ではない。
藤堂の言葉が所謂“告白”という事に、和葉は気が付いた。
冗談などではない、自身を本当に好いた言葉であるという事にも。
『どうして……そんな、価値、ない……っ』
戸惑い、疑問が和葉の頭を占める。
女にも男にも成り切れない、劣等感すら感じていた和葉自身を慕っている、そんな事実が信じられなかった。
嬉しいのか悲しいのか、という感情が訪れるより先に、罪悪感が生まれる。申し訳ない、何故だかそう思った。
『平助、待ってく――』
『待って、じゃない』
和葉が何かを言おうとする前に、藤堂はその身体を抱き寄せた。
『待ってじゃない、和葉。まだ僕を信用してないの?』
クスリと笑う藤堂に、和葉は首を振る。
日が、傾き始めていた。
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