19.交差スル誓

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  「……寒い……」 あれから数日後――、 和葉は布団から上半身のみを起こすと、小さく呟いた。何一つ変わらぬ殺風景な自室に隙間風が抜ける。 窓から見える島原は薄暗く、自分が思った以上に早く起きた事に気が付く。ぺたりと窓に張り付いた橙色の葉が、切ない秋の終わりを伝えていた。 (もう……冬なんだな) すっかり視界は澄み切り、頭も冴える。 和葉は包まっていた掛け布団を払い退けると、枕元に置かれた浴衣を見遣る。それは先日、伏見の宿屋で借りたものだ。 『―――ねぇ、和葉。少し僕の話聞いてくれる?』 そう言った藤堂。 聞かされた言葉。 それを和葉は一字一句鮮明に思い出す事が出来る。 ………… …… 数日前、宿屋―― 『どうした?』 いつもより強張った表情に和葉が尋ねれば、藤堂は和葉をじっと見つめた。 『僕は和葉が好きだ』 『……!?』 それは余りにも唐突で、飾り気のない、真っ直ぐな告白だった。吸い込まれそうな瞳に和葉は息を飲む。 急に熱を持つ身体はきっと、風呂のせいではないのだろう。 『伝えなきゃ、って思ったの。今この瞬間に、好きって』 『平……助……』 和葉とて、そこまで馬鹿ではない。また、沖田程の鈍感ではない。 藤堂の言葉が所謂“告白”という事に、和葉は気が付いた。 冗談などではない、自身を本当に好いた言葉であるという事にも。 『どうして……そんな、価値、ない……っ』 戸惑い、疑問が和葉の頭を占める。 女にも男にも成り切れない、劣等感すら感じていた和葉自身を慕っている、そんな事実が信じられなかった。 嬉しいのか悲しいのか、という感情が訪れるより先に、罪悪感が生まれる。申し訳ない、何故だかそう思った。 『平助、待ってく――』 『待って、じゃない』 和葉が何かを言おうとする前に、藤堂はその身体を抱き寄せた。 『待ってじゃない、和葉。まだ僕を信用してないの?』 クスリと笑う藤堂に、和葉は首を振る。 日が、傾き始めていた。  
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