19.交差スル誓

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  (分からない……自分は、とても、足りない人間だ) 傍で感じる体温が恐い。 和葉はやんわりと、藤堂から身体を離す。 『そんな不服な顔しないでよ。一世一代の告白なのに』 『違っ、自分はただ……』 『安心して。僕は、和葉が男でも女でも、気持ちは変わっていないと思うから』 差し込む夕日の薄い光の中で、藤堂は戸惑う和葉に言う。 『和葉はとても強い。僕はさ、そんな綺麗な魂に惚れたんだ』 『は、恥ずかしい……から、止めろ……』 生まれて初めて、異性から想いを告げられた。悪い気などしない。 なのに、どうしてだろう。 受け取り方が分からない。 いや、違う。どうして、和葉の胸はこんなに息苦しくなるのだろう――… 『どうしたらいい?』 『そのままで、いいよ。返事はいつでも構わないし、結構ね、僕、言えた事で満足してる』 頭を掻きながら苦笑する藤堂はいつもの藤堂で、和葉は眉をひそめたまま笑った。 『ま、ほんとは夫婦になりたいけど?』 『――っ!!』 『冗談だってば。あははっ、和葉の動揺した顔が見れただけで充分!』 藤堂は和葉の頭をそっと撫でる。嫌じゃない、そう思えた。 だが、和葉から返事という名の言葉が出る事はない。優柔不断な己を愚かに思いながらも、優しさに甘えた。 『明日からも、変わらず、僕らは親友だから』 『う、うん』 立ち上がった藤堂は外を見遣る。和葉から見える背中は存外広く感じた。 『話、聞いてくれて有り難う』 『…………』 有り難う、まるで夕暮れに語るような優しい声。 本当はとても嬉しいはずなのに、和葉はただ自分自身の拳を強く握り締めた。 何故か蘇るのは、和葉を押し倒した青年の顔。 自分の肌に触れた手、 自分の名前を呼ぶ声、 自分を見る悲しげな顔。 (やっぱり……平助。自分に、好いてもらう、価値はあるのだろうか?) 自分という存在を認めてくれた藤堂に、感謝すらした。だが、息苦しくて声が出ない。 矛盾の感情に、和葉はただ戸惑い続けるのだった……  
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