19.交差スル誓

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  まるで捨て猫のような雰囲気すら醸し出す男に、和葉は首を傾げた。 (何処かで会ったような……) そこまで考えた所で、ふと和葉は手に持つ小鉢に視線を落とした。 「よ、良かったら……食べますか?」 「ん?」 だらりと下がった頭を上げた男。言葉と漂う匂いに反応したのか、みるみる顔が明るくなる。 「お登勢さん、あげちゃって構わないですか?」 「勿論、殿方がえぇんやったら……」 「んじゃあ、頂きますきっ」 ぱくり、和葉が箸を渡すより先に男は人参を摘み口に入れた。重たげな目を大きく見開いてみせた男に、和葉は不安げにその顔を覗き込む。 「えっと……味は――」 「げにまっこと美味いぜよ!!」 「う、わぁ!?」 尋ねようとした瞬間、部屋中に男の大声が響き渡った。 驚いた和葉が身を引こうとするも、男が和葉の肩を強く揺さ振る。勿論、突然の事に対応出来る訳もなく、和葉は男と共に畳に倒れ込んだ。 「こんに美味い“がめ煮”は初めてぜよ! 九国の出身か?」 「違う。ここでは筑前煮と言うが、郷土では“がめ煮”と呼ぶんだな。殆ど感覚で作ったが……」 「天才ぜよ!! ここまで再現出来ちょるん見たんは、初めてぜよ。深い味といい、具の良い塩梅の柔らかさといい、まっこと素晴――」 目を輝かせたまま感想を述べる男の口を和葉は思わず手で塞ぐ。 「褒めたって何も出ない。美味しいと言うなら、喋らず食べてくれ」 頭を掻きながら俯く和葉に男は大きく頷くと、上半身を起こし食べる事を再開した。 何とも気持ちの良い豪快な食べっぷりに、和葉は乱れた髪を梳きながら苦笑する。 「……口に合って良かった」 「恩に着るぜよ。わし、このままやと腹の減り過ぎで死んでしもう所やったきぃ」 再び和葉に向き直った男は手を握りぶんぶんと振る。 「わ、わーったから。離れろ、脳が……揺れ、る」 「ほんま。此処は神聖な船屋どす。男といちゃつくんやったから余所行っておくれやす」 突然落ちてきた絶対零度の声に二人が見上げれば、そこにはいつの間に現れたのか“おハル”が立っていた。  
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