19.交差スル誓

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  怒りを露にする和葉に男はあくまでも笑顔で対応する。 ここは男が泊まっている部屋なのだろう。衣服に書物に刀、がらくた等、部屋中には物が溢れていた。 「突然叫んだと思えば連れ出して……どういう了見だ」 「了見も何も、やっと会えたちゅう思うたが……おまん、わしの事覚えとらんのか?」 今度は驚いたように目を丸める男。よく変わる表情は人懐っこく、和葉が強引にでも帰れないのはそこにあった。 (覚えて、いない……?) 和葉は男の顔を見遣る。歳は近藤より少し年上といった所だろうか。 鋭いながら愛嬌ある顔立ち、見上げる程の長身、くたくたの着流しと癖毛特徴ある訛り。 「……っ! もしかして、お前は……」 それは丁度、蛤御門の変が起きる前だっただろうか。 『――嬉しいそうな面しちょって、何があるがか?』 ニカリと笑った顔と声が、和葉の記憶から鮮明に思い出される。 屯営帰りの和葉とぶつかった男。取り留めのない事だが、確かに和葉の記憶に男はいた。 「やっと、思い出したかぁ。わしも、さっき気付いた所き」 「何処かで見た顔だったとは思っていたんだが……それにしても、何故一度会っただけの自分を捜していたんだ?」 名も知らぬ二人に勿論接点はない。和葉が眉をひそめると、男はニコリと笑った。 「ずーっと気になってたんぜよ。楽しい“がーる”が忘れられへんかったんぜよ」 「がぁる? 無礼なお前とは接点があるとは思えないが」 警戒心を解く事なく冷たく言う和葉。目を細めて男を見定めるも、読めない。 そうする内に、男は右手を着物の袖に入れた。ごそごそと何かを探る仕草に、和葉は身構える。 「見せたかったもんがあるんぜよ?」 男が取り出したのは、不思議な形をした鉛の塊であった。 妖しく光る漆黒のそれは――、酷く美しい。 「何だ、それは……」 ゴクリと和葉の喉が鳴る。 説明されずとも、それがとても危険を孕む事に本能が気付いた。 逃げるべきだ、そう頭が言おうとも身体は好奇心を抑えられない。 和葉はそっと手を伸ばした。  
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