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「これは“ぴすとる”ゆう名前き。人の身体に簡単に穴をぶち開ける、異国の武器ぜよ」
伸ばした手が男の言葉に止まる。吸い込まれそうな程に濁りなき漆黒が、男の手の中で回転した。
「触れてみるかぇ?」
「…………」
無言は、肯定だった。
男の想定内といった笑みに少し腹立たしくなるも、和葉は素直に手を伸ばす。
「――っ」
ズシリ、と右手に掛かる質量。痺れる感覚さえする冷たい漆黒の塊に、和葉は息を飲んだ。
慌てて左手も伸ばし受け取ると、思わず武者震いした。
和葉だけでなく“嶋原始末屋”の血が騒ぐ。最近は閉じ込めていた、黒蝶を振るう感覚を全身が思い出す。
(身体は、受け入れているのか?……まさかな)
肩を竦めた和葉は直ぐに、その忌ま忌ましい感覚を払拭した。
「連れに貰うた代物なんじゃが、美しいぜよ? だが、気ぃ付けんと、扱う己の命さえ奪うもんやき。中に鉛弾入れて引き金引いたら、そん筒の先から弾が飛び出す」
初めて刀を持った時と同じ、緊張と好奇心に襲われる。
「まともに喰ろうたら、即死やき。親指の先程度の弾が骨を砕き、真っ赤な花咲かせるんぜよ」
「不気味な事を言うな……」
「連れの言葉やきぃ。たった一発で終わらせる事の出来る、刀よりも恐ろしいもんぜよ」
淡々と言う男の表情は真剣であり、和葉の手の中でそれは質量を増す。
「ば、馬鹿馬鹿しい……大砲等なら聞いた事がある。だが、こんな小さなモノが刀に優るはずはない」
ピストルを一睨みした後、和葉は男にそれを差し出す。一刻も早く手放したかったのだ。
――カチリ、
その瞬間だった。
玩具の様な軽々しい音がしたと思えば、ピストルは男の手の中で一回転する。
「手厳しいのぉ、わしの宝物をそんに信用してくれんかったら……」
――カチリ、
和葉が何かを察して目を見開いたが、身体が動かない。
そして、
「試してみるか、おまんの身体で」
男から笑顔は消えていた。
代わりに銃口はぴたりと和葉の眉間に添えられていた。
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