19.交差スル誓

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  「これは“ぴすとる”ゆう名前き。人の身体に簡単に穴をぶち開ける、異国の武器ぜよ」 伸ばした手が男の言葉に止まる。吸い込まれそうな程に濁りなき漆黒が、男の手の中で回転した。 「触れてみるかぇ?」 「…………」 無言は、肯定だった。 男の想定内といった笑みに少し腹立たしくなるも、和葉は素直に手を伸ばす。 「――っ」 ズシリ、と右手に掛かる質量。痺れる感覚さえする冷たい漆黒の塊に、和葉は息を飲んだ。 慌てて左手も伸ばし受け取ると、思わず武者震いした。 和葉だけでなく“嶋原始末屋”の血が騒ぐ。最近は閉じ込めていた、黒蝶を振るう感覚を全身が思い出す。 (身体は、受け入れているのか?……まさかな) 肩を竦めた和葉は直ぐに、その忌ま忌ましい感覚を払拭した。 「連れに貰うた代物なんじゃが、美しいぜよ? だが、気ぃ付けんと、扱う己の命さえ奪うもんやき。中に鉛弾入れて引き金引いたら、そん筒の先から弾が飛び出す」 初めて刀を持った時と同じ、緊張と好奇心に襲われる。 「まともに喰ろうたら、即死やき。親指の先程度の弾が骨を砕き、真っ赤な花咲かせるんぜよ」 「不気味な事を言うな……」 「連れの言葉やきぃ。たった一発で終わらせる事の出来る、刀よりも恐ろしいもんぜよ」 淡々と言う男の表情は真剣であり、和葉の手の中でそれは質量を増す。 「ば、馬鹿馬鹿しい……大砲等なら聞いた事がある。だが、こんな小さなモノが刀に優るはずはない」 ピストルを一睨みした後、和葉は男にそれを差し出す。一刻も早く手放したかったのだ。 ――カチリ、 その瞬間だった。 玩具の様な軽々しい音がしたと思えば、ピストルは男の手の中で一回転する。 「手厳しいのぉ、わしの宝物をそんに信用してくれんかったら……」 ――カチリ、 和葉が何かを察して目を見開いたが、身体が動かない。 そして、 「試してみるか、おまんの身体で」 男から笑顔は消えていた。 代わりに銃口はぴたりと和葉の眉間に添えられていた。  
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