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「まだ……目が腫れてるから」
「え?」
消え入りそうな声が返って来る。
沖田は思わず聞き返し顔を覗き込むが、俯いて目を合わせようともしない。
「この前に……その……皆で祇園祭に……行った、ろ?」
「あぁ、その時の腫れですか? 随分と泣いてらしたですもんね」
悪戯っ子っぽく沖田が言えば、耳まで真っ赤にさせて顔を上げた。
「あ、あ、あれは!……泣いたんじゃないし……目に塵が入って――」
怒りながら言う姿は何とも滑稽で、沖田は眼鏡を投げた。そのまま腰を落とし、ニッと笑う。
「貴方に眼鏡は似合いません。大丈夫です。もう腫れてはいませんよ」
断言されてしまえば、それ以上何も言えない。
黙っていると、ガサリと音がした。どうやら伸びていた隊士らが起きたようだ。
「……沖田、組長……」
「ソイツ、……侵入……者」
「だから違うって言ってんだろ! また一発入れられたいのか」
拳を握り三人へ近付くも、沖田が制した。
「貴方達は、最近入隊されたから存じてなかったのでしょう。
こちらは新撰組の門下生、和葉さんです」
沖田から紹介された門下生――和葉は、仏頂面のまま頭を下げる。
「この小汚い餓鬼が?――」
一人が怪訝そうに言った途端、身体が再び宙に浮く。
「沖田さん、苦無を一つ使いたいんだが?」
「駄目です。大切な一番隊隊士さんですから、離して下さい」
仕方なく手を離した和葉は、ふんっと鼻を鳴らす。
「皆さん、和葉さんは強いです。下手に手を出せば……
“始末”されますよ」
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