1. 物語ハ再ビ

6/23

2300人が本棚に入れています
本棚に追加
/537ページ
  「まだ……目が腫れてるから」 「え?」 消え入りそうな声が返って来る。 沖田は思わず聞き返し顔を覗き込むが、俯いて目を合わせようともしない。 「この前に……その……皆で祇園祭に……行った、ろ?」 「あぁ、その時の腫れですか? 随分と泣いてらしたですもんね」 悪戯っ子っぽく沖田が言えば、耳まで真っ赤にさせて顔を上げた。 「あ、あ、あれは!……泣いたんじゃないし……目に塵が入って――」 怒りながら言う姿は何とも滑稽で、沖田は眼鏡を投げた。そのまま腰を落とし、ニッと笑う。 「貴方に眼鏡は似合いません。大丈夫です。もう腫れてはいませんよ」 断言されてしまえば、それ以上何も言えない。 黙っていると、ガサリと音がした。どうやら伸びていた隊士らが起きたようだ。 「……沖田、組長……」 「ソイツ、……侵入……者」 「だから違うって言ってんだろ! また一発入れられたいのか」 拳を握り三人へ近付くも、沖田が制した。 「貴方達は、最近入隊されたから存じてなかったのでしょう。 こちらは新撰組の門下生、和葉さんです」 沖田から紹介された門下生――和葉は、仏頂面のまま頭を下げる。 「この小汚い餓鬼が?――」 一人が怪訝そうに言った途端、身体が再び宙に浮く。 「沖田さん、苦無を一つ使いたいんだが?」 「駄目です。大切な一番隊隊士さんですから、離して下さい」 仕方なく手を離した和葉は、ふんっと鼻を鳴らす。 「皆さん、和葉さんは強いです。下手に手を出せば…… “始末”されますよ」  
/537ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2300人が本棚に入れています
本棚に追加