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肌で直接痛みを感じているだけにヒィ、と声を上げる隊士ら。そこへ沖田は微笑みと共に留めを刺した。
「ちなみに池田屋事変で、かの有名な“吉田 稔麿”を倒したのも、この方ですよ」
瞬間、隊士の顔が恐怖に歪み青ざめる。
「な、ななな……あの吉田を?」
「……まさか」
言葉ではそう言うが、隊士らは和葉から退いてゆく。
まるで化け物を見るような顔に、和葉の口角がほんの少し上がった。たが、直ぐさま真顔で沖田に向き直る。
「沖田さん、もうその話はいいでしょ。終わった事だから」
その瞳が刹那曇った気がした。
「すみません……本当に」
沖田は慌てて謝ると唇を噛んだ。そぶりは見せないが、和葉にとって池田屋事変は禁句なのかもしれない。
「浅はかでした……ね」
「もう、いいって! それより今日の道場稽古の隊は?」
「三番隊と一番隊ですよ」
気持ちを切り替えて沖田が答えると、和葉は人差し指を顎に添えて思案する。
「ふーん、斎藤と……って、沖田さんじゃないかっ!」
「そうですよ。じゃあ頑張って下さいね。応援してま――」
笑顔で手を振る沖田の首根っこを間髪入れず掴む和葉。
「待て待て待て! “じゃあ”じゃないだろうが。組長だろうと稽古には参加しねぇと駄目だ!」
「えぇー、私これから近藤さんと囲碁の約束があるんです」
「馬鹿かっ」
パチン、言うや否や沖田の頭に和葉の手刀が落ちる。勿論、本気ではないが。
. .
「お前は仮にも自分の師匠なんだ! 怠けるなんざ言語道断」
鋭く睨みを入れると、和葉は沖田に言い放つのだった。
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