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「仕方ないですね、行きますから」
和葉にしっかりと袖を握られてしまえば、どうしようもない。
沖田は伸びた三人の前に座り込むと、困ったように笑った。
「乱暴者ですみませんね。本当は良い人なんですよ? 何てったって、和葉さんは私達の仲間なんですから」
「な、何言ってんだ。早く行くぞ!」
怒ったように足踏みする和葉。なのに声はどこか上擦っていた。
「分かりましたよ。でも、そんなに急がなくても道場は逃げませんよ」
「時間は逃げます! 自分はお前らより忙しい人間なんだ。あ、そうだ」
思い出したように指を鳴らした和葉が三人に振り返る。
「自分、普段は島原の置屋【風間屋】で下男をやってる。言ってくれりゃ、良い姉様紹介してやるよ」
(……まぁ、鐚一文まけてやらねぇがな)
ニッと意地悪く微笑んだ和葉は、颯爽と沖田を抜かし道場へと歩き出したのだった。
「和葉さんっ、もう少し言動を優しくしては? 貴方は…………女子なのですし……」
和葉を追い掛けた沖田は、深い溜息を吐いた。
誰がどう見ても中性的、いや少年顔の和葉はムッと横の沖田を睨む。
「自分は男、女の様な性別に囚われるつもりはない。そんな事ばかり言ってるから女々しいんだ、沖田さんは」
「……はいはい」
いつもの事ながら強気な発言を受け流していると、沖田はふと和葉の左手に視線を落とした。
「その風車どうしたんですか?」
三人の隊士をのした時から手放さない、赤い風車。それを指差し沖田は首を傾げた。
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