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すっかり持っていた事すら忘れていた和葉は、沖田と同じく首を傾げる。
そして躊躇う事なく握っていた左手を突き出した。
「んー、拾ったけど要らないし……お土産です。沖田さんどうぞ、今日の稽古代」
「誰かの落とし物をどうして、そんなに堂々と……」
一応受け取ってみたものの、赤い風車は沖田の気も知らず暢気に回る。
「だって……自分が拾わなきゃ、可哀相で」
「ふっ、和葉さんらしいですね」
どうしてだか咎める気にもならず、沖田はずれた羽織をかけ直した。
「その浅葱羽織、廃止するんだってな」
「えぇ。私は肌寒い時に上着として使用しているのですが……って、どうしてそれを?」
慌てて問い返す沖田。
浅葱羽織の廃止は、ほんの最近に幹部会議で決まったばかりのなのだ。
「いや、土方さんが前にそんな事言ってたから」
「あぁ……」
「確かに浅葱色なんざ、うつけみたいで気味悪い」
空に透けてしまいそうな爽やかな色ではあるが、和葉の言う通り些か派手過ぎる。
この浅葱羽織の廃止は、ある意味大正解なのかもしれない。
「貴方ってお人は、廃止と知れば言いたい放題ですね」
案外気に入ってたのですが、と沖田が続ければ和葉は横目で見遣った。
「確かに似合うけどな」
「え?」
ガタン、
沖田には答えず和葉が道場の扉を開けば、鼓膜に響く稽古の声。
「皆さん頑張ってますね」
「お前も頑張れよ!」
再びペチン、と手刀を落とした和葉は、意気揚々と道場に入ってゆくのだった。
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