1章 僕らは

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その木棚は、この病室の主(あるじ)が寝ているはずのベッドに、寄り添うようにして位置している。 そしてそのベッドには、その主、落合 溢瑠(オチアイ イチル)が眠っている。 彼女は身体を患っている。 そう、入院しているのは僕ではないんだ。 「――イチル、起きて。朝だよ」 「ん……」 「10時頃に先生が診にくるから薬飲まないと…朝ご飯も食べてないし」 「うん…おはよう、イツキ」 「おはよ。今日は天気がいいから外に出てみようよ。僕もバイト休みだし」 イチルはまだ眠たそうな目で僕の動きを追っている。 夏の香りをたっぷり含んだ風が病室を吹き抜け、イチルの細い髪をかき乱す。 薄い茶色のそれは白い肌によく映え、その透明さを強調していた。 そして、前髪から覗く大きくてまるい目に長い睫毛、筋の通った鼻、薄い唇… 正直、イチルはとても綺麗だと思う。 (本当…20代に見えないよなあ…) 「…イツキ?どうかしたの?」 「ん?ああ…何でもないよ。それより朝ご飯!あとそれから薬もちゃんと飲んで!」 「はいはい、イツキは本当にせっかちねえ。まだ起きたばっかりなのに…」 イチルはほっぺたを膨らましてむくれた。 「せっかちで結構!いいから早くしないと先生来ちゃうよ」    
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