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カウンター越しに、聖二の姿が見えた。いつものように静かに優しさを含んだ笑みで客の女性と話をしている。
「ごめん、待った?啓介来るの早いよ。」
「いや、今来たとこだからさ。こんな店があったのか、知らなかったなぁ。」
「ね、素敵なお店でしょ?」
「そうだね…。」
と言いながら啓介は手を挙げて聖二を呼ぶ。そのとき、聖二もこちらに気付いた。
「いらっしゃいませ、今日は何かの記念日でしょうか?」
真樹が珍しく男性といるので気を使ったのか、聞いてきた。
そう言われて気を良くした啓介は、
「そう、俺たち初デート。」
―やめてよ、勘違いされるじゃない…。
「ただ遊びに来ただけよ。」
真樹が直ぐに否定すると、啓介は少し不機嫌な様子だった。
「それでは、記念にカクテルを作りましょう。お好みはありますか?」
「じゃあ、ジンを入れて。」
「かしこまりました、真樹様はラムですよね?」
「えぇ、お願いします。」
聖二は気にすることもなく冷静だ。彼のそんなところも真樹は気に入っていた。自分が年上なのだということさえ忘れる程の安心感が彼にはあった。
―お客さんだもの覚えてて当たり前よね。
と思いながらも、彼が自分の好みを覚えていてくれたことが何より嬉しかった。
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