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夏の午後。夕立だろうか、突然雨が降り始めた。
ザーッという激しい音と共に、ベランダに落ちる滴がペチペチと跳ねる音が耳に届く。
「雨…。」
真樹は呟きながら外の様子をしばらく眺めた後、ベランダの窓を静かに閉めた。雨は、心に溜まった水溜まりを溢れさせる。
―愛してるよ、真樹。
真樹はベッドに横たわる聖二を見つめながら、彼が耳元で囁いた言葉をゆっくりと思い出していた。
穏やかな顔で眠る聖二の隣に、そっと寄り添う。その虚ろな目には真横に傾いた部屋が写し出され、その片隅に置かれた小さな白いテーブルの上に、くすんでしまったシルバーリングが1つ光っていた。
真樹は聖二への溢れだす想いを包み込むように、彼の面影を求めて静かな空間に視線を伸ばした。
「聖二…。」
そう呟きながら彼の手をやさしく握ると、彼も握り返すようだった。彼女の指にはリングがはまっており、まるで、彼に力を与えるかのように輝いていた。
真樹が聖二と出会ったのは1年前のことだ。それは、ちょうどこんな風に激しい雨の降る夜だった。
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