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~事の発端~
ある春の日の金曜日…。
時刻は、午前10時。
今日の空は、雲一つ無い、実に良い天気。
「ルン・ルン・ルン~♪」
出版社『天河文芸出版』の外勤営業マン、火刈愛之介は
A森林公園の駐車場に会社の車を停め、
鼻歌まじりに運転席でコンビニ弁当のトンカツに中濃ソースをかけていた。
外勤途中の、ちょっと…いや、カナリ遅めの朝食である。
(朝ギリギリまで寝ていたので出社前に家で食べてる時間なんぞ無かったのだ)
「ルン・ルン・ルン~♪」
外勤営業マンの良い所は
空き時間さえできれば、公園で寝ようとコンビニで立ち読みしようと思いのまま。
いつを休憩時間にするかも思いのまま。
で…外勤営業マンのツライ所は、
その休憩時間が急に無くなってしまうのが日常茶飯事という事。
「んじゃ!いただきま…」
火刈がトンカツをハシで口に運ぼうとした、まさにその時である。
『ピロリロリロリン~♪』
胸ポケットの携帯電話が『平和感いっぱい』の音で着信を告げた。
「………」
彼は渋々、トンカツを弁当の箱に戻すと、胸ポケットから携帯電話を取り出し電話に出た。
「はい。もしもし?火刈ですが」
『おう!ヒカリ君!ワシや。ワシや』
もう、すっかり聞き慣れた関西弁の男の低いダミ声が聞こえてきた。
「あ、蔵屋先生!いつもお世話になっております!」
電話の相手は、火刈が担当している小説家の一人、蔵屋実である。
『クラヤ・ミノル』と読むが…
彼の作品上(小説上)のペンネームは、その名前の漢字をもじってカタカナ四文字で『クラヤミ』。
「先生。今日は、どうしました?」
『クラヤミ』こと、蔵屋実は、火刈の問いに低いダミ声を更に低くして、こう答えた。
『いや、実はな。ワシ(自分)の次の作品なんやけど…
また君に手伝ぉて欲しいなぁ思うてな』
「なるほど…そうでしたか」
まただ…。
また、この人は自分の作品(小説)のストーリーを私に考えさせるつもりなんだ…。
と、火刈は心の中でため息をついた。
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