散策

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土方はふぅ、とため息をつくと、刀を持ったまま立ち上がり、部屋にある押し入れの中に行き、その中に刀を入れた。 そして文机の所に戻ると、その前に土方は座る。 部屋はわりと綺麗なのに、文机だけはいろいろな紙や本が積み重なっていて汚かった。 土方はその積み重なっている中から慣れた手つきで本の山を崩さずに薄い本を取り出した。 その本は、豊玉発句集という土方自作の句集だった。 土方が俳句を作ることは、秘密にしていたことなので、今までは近藤ですら知らなかった。 しかし昨日、沖田にそれがバレてしまう。        ・・ あろうことか、あの沖田である。      弱味を沖田に握られたのでこれから自分は散々からかわれるであろうと土方は思い、恐怖したが、自分の趣味を止める気は土方にはなかった。 だから今日も土方は発句集の本を開き俳句を書こうと…………。 書こうとしたが、土方は発句集を見たまま固まってしまった。 彼が見ているのは、自分の俳句ではなく、隅に書かれた小さな文字。 明らかに自分の字体とは違うこの文字を読んで土方は肩をフルフル震わせてーーそして…… 「総司イイイイイイ!!!!」 と、叫ぶと勢いよく立ち上がり、襖を乱暴に開けて土方は部屋を出ていった。 豊玉発句集に沖田が書いたことそれは…… “土方さんへ 土方さんが貯めていたお金、お借りますね。 誰かに言ったら土方さんが俳句を詠んでいること皆に教えちゃいますから♪ 沖田 総司より” という、脅しじみた文章だった。 ,
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