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別にそこまで頑固に帰宅部にこだわってもいなかったし、私は絵が描けるなら何でも良かった。というより、むしろ
「美術部に入れば、画用紙だって絵の具だって好きに使っていいから」
という先生の出した条件は魅力的ですらあった。
美術部は最低でも週に一度、月曜日は絶対に美術室に顔を出さなくてはならなかったが、それ以外の曜日は放課後なら、いつ行ってもいいというのも気に入った。
「分かりました、入ります」
そうして私は美術部員となった。
別に面白くも、つまらなくもない普通の部だった。美術室は広いし、明かりが取り入れられている。でも私は目の前にあるものを描くことが多いから、あまり美術室には行かなかった。美術室に閉じこもって絵を描くくらいなら、公園にでも行く方が良い。それでも月曜日だけは部員が全員集まって、作品の進捗状況だのを報告する。それが一番、気が滅入る。
「もうすぐコンクールですから、下書きを提出して下さい」
当時の部長に言われて、私は溜息を吐いた。コンクールのテーマは「蝶々」だそうだ。
(蝶々の絵なんか描いてどうするんだろう)
春の野をひらひらと飛ぶ所を描いて来いというのだろうか。
(蝶々はじっとしてないから描きにくいな)
そんなことを考えていた。他の部員はといえば、春の訪れの喜びを表現するだとか、儚さを表現するんだとか色々言っている。私に言わせれば
(蝶々は蝶々。それ以外の何も表現しない)
と、そう思う。
今までそれでどうにかなっていた。何を表現したいとか、そういうことは関係ない。描きたいものをただ描いて、偶然、賞が獲れていただけ。だから当時の部長や、美術部の顧問に
「コンクール、期待してるわよ」
と言われる度に溜息がこぼれた。
まぁ、それでも私は結局賞を獲った。公園で飛んでいる蝶々と、遊んでいた子どもの絵を描いただけだが、それでもなんとかっていう偉い人からは
「穏やかな日常と幸福を凝縮させた素晴らしい絵」
というありがたいお言葉をもらった。それを聞いた時、私は笑いを堪えるのに苦労したものだ。
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