煙草と海とキャンバスと

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 彼の着任一週間で、分かったこと。  O型。超一流美大卒。ちなみに美大に入るというのはものすごく大変なことだ。それが日本で最難関の美大卒だから驚く。  その癖、ものすごく適当で、クラスのホームルームもほとんど学級委員に任せっぱなし。部活も部長である私に任せきり。  そして人の名前を覚えるのが、本当に苦手。 「学級委員、前に出て」 とか 「窓際一番後ろの席の女子、手伝ってくれ」 とか 「出席番号4番男子。ちょっと来い」 とか、そんな感じ。  ちなみに私のことは 「部長」 と呼ぶ。 (とことんどうしようもない人だな) と思う。  でも、モテた。クラスの女子だけではなく、他のクラスの女子までわざわざ見に来るくらいだ。  なんでモテるのかと言えば、先生らしくないからだろう。  一応スーツは着ているし、朝はかっちりしているのだけれど、昼休みを過ぎる頃には着崩れ始め、放課後にはネクタイなんか取っている。  でもそのラフな感じが、だらしなく見えない。 「蔵人(クロウド)先生、おしゃれ」 「格好いい」 と、女子には大評判。  そして男子にも人気があった。 「おら、野郎共。寄り道せずにまっすぐ帰れよ。どうせ寄り道するなら、せめてバレないようにやってくれ」  そう言って先生が男子生徒を教室から追い出そうとすると 「時間はあるけど、金がないから教室に残ってるんじゃん」 などと文句が出る。先生はクッと低く笑って 「彼女でも作れよ。そうしたら金なんかなくたって、公園でもどこでも楽しめるだろ」 などと言った。先生が言う台詞じゃない。 「お前ら、女の一人くらい作った方がいいんじゃねえか。こんなとこで野郎同士で駄弁ってるくらいなら、ナンパでもしに行けよ」 と言った調子でひらひらと手を振ったりするものだから、男子生徒からはある意味でカリスマ的な人気があった。 (どこの学校にナンパを推奨する教師がいるの)  私はあきれてしまった。
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