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『‥人民の諸君、今こそ立ち上がり武を持って武を制するのだ。真の……』
何時もの下らない演説を流しながら飛行船が空を飛んでいく。
こんな物、誰も聞いている訳が無いのに毎朝ご苦労な事だ。
くわえた煙草にライターで火を付けた後、防波堤に座った青年は空を見上げた。
まだ10時そこそこだと言うのに、早くも夏らしい日差しが彼に降り注いでいる。
「……ふぅ~」
青年は吸い込んだ煙と共に溜め息を吐き出す。
煙は直ぐに空気に溶け込み、彼の目の前には臭いだけが残った。
(‥今日も依頼は無しか…)
数ヶ月前に何となく始めた『運び屋』だが、依頼が無ければ殆どニートだ。
まぁ、確かに今日日流行らない仕事ではある。
最近は反政府ゲリラの活動が激化した所為で、外出規制も厳しくなってきた。
この鬱陶しい演説も、ゲリラを牽制する意味があるらしが、正直言って成果は出ていない。
(いっそゲリラにも営業掛けてみるか?。……いや、捕まるな‥)
「‥しゃぁ無い…。今日も適当にガラクタ集めて鉄工所にでも、……?」
何の気なしに足元のテトラポットに目を向けると、ボロ布が引っかかっていた。
よく見ると、布の隙間から人の手の様な物がテトラポットの出っ張りを掴んでいる。
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