第Ⅰ章:壊れた日常

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常識からすれば助けるべきだが、あんな状態の奴はどう考えても『訳あり』だ。 このご時世、わざわざ揉め事に首を突っ込みたくない。 「‥悪いな」 防波堤に戻った青年はそのまま反対側に飛び降り、停めて置いた自分のバイクに跨る。 そして新しい煙草に火を付けた後、爆音にも似たエンジン音を発ててその場を後にした。 『街』 速度超過をギリギリオーバーした速度で、バイクは街の道路を疾走していく。 青年には、毎日決まった時間に行く場所があった。 『セクション74』と言う道路標識を通り過ぎると、彼はブレーキを握る。 このタイミングでブレーキを掛ければ、丁度目的地の前に止まれるのだ。 バイクは一軒の廃ビルの前で完全に停止した。 その前には、他にも何台かのバイクや車、中には自転車も止まっている。 この場所だけは、どれだけ規制が掛かろうと人が絶える事はない。 (何時もより少し遅れたけど、何か『仕事』残ってるかな?) 彼はエンジンを止めて鍵を引き抜くと、ビルへ入る為の扉の前に立つ。 だが、直ぐには中に入らない。 正確には、『入れない』 「入場料も馬鹿に成らないんだけど、仕方がないか…」 彼は溜め息混じりに財布を引っ張り出すと、扉の右上に付いた機械に小銭を入れる。 すると扉がひとりでに開き、人のざわめく声や音が漏れてきた。 「よ。今日もご苦労さん」 扉を入っていく直ぐ左側に立つ強面の男に、彼は満面の笑みで挨拶をする。 しかし男は表情を変えず、何の反応もしない。 「相変わらず、ノリが悪い奴…」
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