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常識からすれば助けるべきだが、あんな状態の奴はどう考えても『訳あり』だ。
このご時世、わざわざ揉め事に首を突っ込みたくない。
「‥悪いな」
防波堤に戻った青年はそのまま反対側に飛び降り、停めて置いた自分のバイクに跨る。
そして新しい煙草に火を付けた後、爆音にも似たエンジン音を発ててその場を後にした。
『街』
速度超過をギリギリオーバーした速度で、バイクは街の道路を疾走していく。
青年には、毎日決まった時間に行く場所があった。
『セクション74』と言う道路標識を通り過ぎると、彼はブレーキを握る。
このタイミングでブレーキを掛ければ、丁度目的地の前に止まれるのだ。
バイクは一軒の廃ビルの前で完全に停止した。
その前には、他にも何台かのバイクや車、中には自転車も止まっている。
この場所だけは、どれだけ規制が掛かろうと人が絶える事はない。
(何時もより少し遅れたけど、何か『仕事』残ってるかな?)
彼はエンジンを止めて鍵を引き抜くと、ビルへ入る為の扉の前に立つ。
だが、直ぐには中に入らない。
正確には、『入れない』
「入場料も馬鹿に成らないんだけど、仕方がないか…」
彼は溜め息混じりに財布を引っ張り出すと、扉の右上に付いた機械に小銭を入れる。
すると扉がひとりでに開き、人のざわめく声や音が漏れてきた。
「よ。今日もご苦労さん」
扉を入っていく直ぐ左側に立つ強面の男に、彼は満面の笑みで挨拶をする。
しかし男は表情を変えず、何の反応もしない。
「相変わらず、ノリが悪い奴…」
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