序、

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 親から子へ、子から孫へ。その言い伝えは語り継がれる。  ──あの森には決して入ってはいけない。  理由など言い伝えられるうちに薄れてしまった。たが、決して入ってはならない、とそれだけは固く、固く皆が言う。  化け物が住んでいる、とか。  あるいは毒ガスが発生している底なし沼がある、とか。  更には呪われている、とか。   湾曲した様々な噂が飛び交い、真実を知る者は誰もいない。  ただ一つ言えるのは、その森に入った人間は、誰一人戻らなかったという事だけ。  だから人々は言うのだ。『丑三つの森には近づいてはならない』と。  しかし、とうとうその禁断の森に足を踏み入れる人間が――。          ◇◇◇ 「なぁ、マジで行くのかよ?」  夜十一時。膝ほどまで伸びた雑草をガサガサと掻き分けながら森を進む人影が三人。  今日は満月だというのに、森は懐中電灯がないとどこに何があるか把握できないほどに暗く、虫の声一つしない。どんよりと沈みきった周囲が一層に不気味さを引き立てていた。 「いやいやいや、みっちー怖いのかよ!?」 「バッ…!! んなわけねぇだろ!? ……つか……ほら、ここはじいさんばあさんに何回も説教みたいに言われてた『丑三つの森』だからさ……」  次第に声が萎んでいく“みっちー”に他の二人は腹を抱えて爆笑する。 「バカじゃね!? 嘘に決まってるじゃん!! アンタ信じてんの!?」 「さっきまで心霊写真取りに行くってイキってたのアンタでしょ!! はぁ~最悪。彼氏がこんなヘタレだったなんてマジで幻滅なんですけど」 「エミ。こんなヤツほっといて行こうぜ」  うん、と頷いてもう一人の少年に従う“エミ”。“みっちー”が慌てて後を追った。  意気揚々と進む二人と、おずおずと歩く一人。奥を目指せば目指すほど、不気味さと重苦しい空気が三人を襲う。知らず、三人の額や背中から冷や汗が滲んでいた。 「……なあ」  最初に口を開いたのはもう一人の少年“ノリ”。 「ここ、さっきも通ったよな」 「……は?」 「……ほら、この木」  “ノリ”が指し示す切り株は、二人にも確かに見覚えがあった。一気に三人の背に悪寒が走る。 「……ば、馬鹿じゃん!? ンな訳ないっしょ!!」
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