序、

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 懸命に自身を奮い立たせ、叫ぶ“エミ”の声も、虚しく森に吸い込まれていくだけ。 「てか、俺ら…こんなに奥まで入ったっけ?」  カタカタと震えながら口を開く“みっちー”の声は今にも消え入りそうだった。はっとした残り二人は慌てて辺りを見回す。  森に入ったのは十分前。ついさっきまでは入り口を確認できた。  ──出来ていた、のに。  三人の顔から一気に血の気が引いた。 「い、いやああああ!!」 「あ!! おい!! 待てよ…!!」 「エミ!!」  悲鳴を上げ、“エミ”ががむしゃらに走り出す。二人も慌ててその後を追いかけた。 「やだ!! 帰る…帰るぅ――!!」  小枝が体中を傷つけているのにも全く気づかず、“エミ”は暗闇を逃げ惑う。  見えるものには見えていただろう。三人を先導するが如く手招く、無数の、手。 「や、ママ…!! 助け、て――ったあ!!」  呼吸も足も限界。もつれるように倒れた“エミ”。パニックになりながらも何とか起き上がった彼女の眼前に、『壁』が立ちはだかった。 「…え…?」 「何だよ、これ…」 「…岩?」  “ノリちゃん”の判断は正しい。しかしその岩は『岩』と呼ぶには不似合いすぎた。
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