提体の縁、夜の淵

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 ここにたどり着くまでに、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。あっという間だった気もするし、耐えきれないほど長き時間だった気さえする。  不確かな概念でしかない時間。そのために述べられた理念も理屈も俺には関係ない。たどり着いてさえしまえば、そこに至るまでの過程はいとも容易く伸縮する。その事実だけが全てだ。  脳という箱に捕らえられた記憶達がそれを助長する。  記憶とは何か?  断言してしまおう。記憶こそが自分が自分である証しだ。  まぁいい、どんな手段にせよたどり着いたんだ。そこは始まりの場所ではなく、始まりの時。先の見えない、兆しだけが漂う瞬間。  思い返してみれば、それらは全て10月から始まっていた。  自分のことを話そう。少しの嘘を重ねて、物語の形で隠しながら。
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