デッサン1:出会い

1/1
前へ
/6ページ
次へ

デッサン1:出会い

今日もまた絵を描き続ける。 気に入らない絵は、消去(デリート)。 そして真っ白になったキャンバスにまた下書きを描いていく。 少女には、それが日課だった。 お腹がすけば食事を取り、眠くなれば布団を出して眠る。 それらは全て、具現化魔法。 飽きることはない。 何故なら自分はこれをすることしか知らないのだから。 1枚の絵を描き終わり、具現化魔法を使う。 その絵は、妖精だった。 自由に飛び回り、瞬間移動したりと勝手に遊びまわる妖精。 …翼を描けば自由に空を飛ぶこともできるのだ、自分も。 だが少女は不思議なことにそんなことは一度も思ったことがない。 その時だった。 ザッザッという、足音が聞こえてくる。 何かと思い、足音のする方向を見てみた。 そこには、自分と同い年くらいの、黒い帽子に黒いマントを羽織った少年が立っていた。 少年は不思議そうに、少女を見つめた。 少女は具現化させた妖精を消去する。 そして彼を、物珍しげに見た。 「…君はそんな所で何してるの?」 ふいに、少年の口からそんなことを言われる。 「絵を描いて、具現化させているの。いつものことよ」 「いつものって?」 「いつもはいつも。わたしはここから一歩も動いたことがないの。ずっと、ここで絵を描いて。その絵を具現化して。」 「…飽きないの?」 少年の言葉に、少女はきょとんとして目を見開いた。 「…飽きるって、なに?」 少年は驚いた。 この少女は何も知らないのだ。 「僕はハル。…君の名前は?」 「わたしに名前はないの。」 「え?」 「だから、わたしはわたし。」 「…じゃあ、僕が付けてあげる。」 「え?」 ハルの言葉に、少女は驚く。 「べつに、いらない。名前なんて…便宜上のもの。わたしにはなくても困らないもの。」 「僕が困る。」 「…?」 「だって、いつまでも『君』って呼ぶの嫌なんだ。」 「…勝手にすれば」 「そうだな、君の名前は…ルル!」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加