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デッサン1:出会い
今日もまた絵を描き続ける。
気に入らない絵は、消去(デリート)。
そして真っ白になったキャンバスにまた下書きを描いていく。
少女には、それが日課だった。
お腹がすけば食事を取り、眠くなれば布団を出して眠る。
それらは全て、具現化魔法。
飽きることはない。
何故なら自分はこれをすることしか知らないのだから。
1枚の絵を描き終わり、具現化魔法を使う。
その絵は、妖精だった。
自由に飛び回り、瞬間移動したりと勝手に遊びまわる妖精。
…翼を描けば自由に空を飛ぶこともできるのだ、自分も。
だが少女は不思議なことにそんなことは一度も思ったことがない。
その時だった。
ザッザッという、足音が聞こえてくる。
何かと思い、足音のする方向を見てみた。
そこには、自分と同い年くらいの、黒い帽子に黒いマントを羽織った少年が立っていた。
少年は不思議そうに、少女を見つめた。
少女は具現化させた妖精を消去する。
そして彼を、物珍しげに見た。
「…君はそんな所で何してるの?」
ふいに、少年の口からそんなことを言われる。
「絵を描いて、具現化させているの。いつものことよ」
「いつものって?」
「いつもはいつも。わたしはここから一歩も動いたことがないの。ずっと、ここで絵を描いて。その絵を具現化して。」
「…飽きないの?」
少年の言葉に、少女はきょとんとして目を見開いた。
「…飽きるって、なに?」
少年は驚いた。
この少女は何も知らないのだ。
「僕はハル。…君の名前は?」
「わたしに名前はないの。」
「え?」
「だから、わたしはわたし。」
「…じゃあ、僕が付けてあげる。」
「え?」
ハルの言葉に、少女は驚く。
「べつに、いらない。名前なんて…便宜上のもの。わたしにはなくても困らないもの。」
「僕が困る。」
「…?」
「だって、いつまでも『君』って呼ぶの嫌なんだ。」
「…勝手にすれば」
「そうだな、君の名前は…ルル!」
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