石を蹴る女

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   対岸で絵を描くその女の姿を見掛けるようになったのは、六月に入って間も無くだった。  家の前にある川は、水草が生い茂り、水鳥たちが憩う長閑な川ではあるが、観光スポットでもなければ、特に美しいわけでもない。  (つば)の広い帽子に隠れて顔は分からなかったが、ジーンズにスニーカーを履いたその格好からして、私と同年輩の三十代前半に見受けられた。 「お父さん、また来てるわよ」  煙草を()みながら新聞を捲っている父に教えてやった。 「……ん?」 「絵を描く女」 「……ん」  興味がないのか、上の空だった。
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